コラム
マーケティングの内製化はAIでどこまで可能か|AIで下がった壁と、外部に残る判断
生成AIが下げたのは専門性の壁であり、判断の壁ではありません。AIで内製化しやすくなった業務、AIだけでは難しい領域、内製化の進め方3ステップと外部活用のハイブリッド運用を整理します。
公開日:2026年8月9日更新日:2026年8月10日
執筆・編集:malna編集部(編集方針)

「広告もLPも記事も、AIを使えば自分たちだけで作れるのではないか」
こう感じている経営者やマーケティング担当者は、この数年で確実に増えていると感じています。生成AIの精度向上とツールの低価格化によって、以前は外部に発注するしかなかった業務の多くを、社内の少人数でも試せるようになりました。
当社は、企業のマーケティング支援を専門にしている会社です。だからこそ、この問いに対する答えを曖昧にすることは、読者にとっても私たちにとっても誠実ではないと思っています。本記事では、当社自身がAIを使って社内業務をどう変えてきたかを踏まえながら、「AIでどこまで内製化できるようになったのか」「それでも外部の力が必要な領域はどこなのか」、さらに「実際にどう進めればよいのか」までを、支援会社の立場から率直にお伝えします。
マーケティングの内製化とは?AIが何を変えたのか
マーケティングの内製化とは、これまで広告代理店や制作会社、コンサルティング会社など外部のパートナーに委託していたマーケティング業務を、自社の人員と仕組みで実行できる状態にすることです。
内製化そのものは新しい考え方ではありません。ただ、これまで内製化を阻んでいた大きな壁は「専門知識を持つ人材の不足」と「制作・分析にかかる工数」でした。生成AIが変えたのは、まさにこの2つだと考えています。文章生成AIは未経験者でも一定水準の文章を短時間で作れるようにし、画像生成AIはデザイナーがいなくてもクリエイティブの叩き台を用意できるようにしました。データ分析についても、自然言語での指示だけで集計・可視化を行えるツールが増えています。
つまり、AIが下げたのは「専門性の壁」であり、「判断の壁」ではありません。この違いを見落とすと、内製化の設計を誤ります。次の章から、実際にどこまでがAIで内製化できる範囲で、どこからが判断の壁として残るのかを分けて見ていきます。
内製化そのものが持つメリットと注意点
内製化には、AIの有無にかかわらず、以前から指摘されてきたメリットと注意点の両面があります。AIによって専門性の壁が下がったからといって、この構造そのものが消えるわけではありません。
内製化のメリットとしてよく挙げられるのは、次のような点です。
- 社内にノウハウやデータが蓄積され、次の施策に活かしやすくなる
- 外部への発注・仕様のすり合わせ・修正依頼といった調整コストを圧縮できる
- 外部からの確認待ちが減り、意思決定から実行までのスピードが上がる
一方で、注意点として見落とされがちなのが次の3点です。
- 立ち上げ期は、ツール導入・教育・試行錯誤にコストがかかる(外注コストがそのまま消えるわけではなく、別の種類のコストに置き換わる面がある)
- 専任の担当者が不在のまま進めると、属人化し、担当者の異動・退職で業務が引き継げなくなるリスクがある
- 社内に知見が乏しい領域を無理に内製化すると、品質が落ちたり、リスク判断を誤ったりする
この関係を整理すると、以下のようになります。
| 観点 | 内製化のメリット | 内製化の注意点 |
|---|---|---|
| コスト | 発注・調整コストを圧縮できる | 立ち上げ期の教育・ツール導入コストがかかる |
| スピード | 確認待ちが減り、意思決定が速くなる | 型ができるまでは外部発注時より時間がかかることもある |
| ノウハウ | 社内に知見・データが蓄積される | 属人化すると担当者の異動・退職で継続できなくなる |
| 品質 | 自社の事業理解を反映した施策を作れる | 専門知識が不足したまま進めると品質・リスク判断を誤る |

外注費の削減だけを目的に内製化を始めると、想定した効果を得られないまま終わってしまうケースがある、という声は支援の現場でもよく耳にします。この構造を踏まえたうえで、AIが実際にどこまでこのバランスを変えたのかを、次章から具体的に見ていきます。
AIで内製化しやすくなった業務
生成AIによって内製化のハードルが下がったのは、主に「型がある作業」と「量をこなす作業」です。
- 広告文・LP構成案・SNS投稿文など、テンプレートに沿って複数パターンを出す作業
- 競合サイトやSNSの情報を集めて要約する作業
- 広告やアクセス解析のデータを集計・可視化する作業
- 会議の議事録・要約の作成
- キーワードや検索意図を洗い出すリサーチ作業
こうした変化は、当社の社内でも実感しています。以前は人が集計・作成していたクライアント別の広告パフォーマンスレポートは、今では自動生成される仕組みに切り替わりました。広告費の立替額とクライアントへの請求額の突合も、自動照合の仕組みで行えるようになっています。商談や社内会議の音声を自動で文字起こし・要約する仕組みも、日常的に使うようになりました。オウンドメディアの記事を執筆する際も、複数の視点からのレビュー討議を経て改善する体制を、人手を介さない形で構築しています。
ただし、こうした仕組みは最初からきれいに回ったわけではありません。例えば広告費の突合は、当初はクライアントごとに請求のタイミングや基準が揃っておらず、自動化しても差分が残る時期がありました。基準を整理してすり合わせたうえで、ようやく安定して自動照合が回るようになった、という経緯があります。内製化を仕組み化する過程では、こうした調整の期間が一定発生するものだと考えています。
これらに共通するのは、「以前は人が時間をかけてやっていたことが、今は仕組みとして動いている」という変化です。業務の性質や運用の仕方によって差があるため、具体的な削減時間や削減率は本記事では数値化しませんが、想像できる範囲の業務効率化は、細部まで含めてかなりの部分が実現しているのではないでしょうか。
なお、ツールの選び方や具体的なプロンプトの作り方は業務ごとに異なるため、本記事では扱いません。LP制作はLP制作はAIでどこまでできるか、広告バナーは広告バナーは生成AIでつくれるかで、業務別に整理しています。
AIだけでは内製化が難しい領域
一方で、AIを使っても内製化が難しい領域があるのも事実です。支援の現場で繰り返し直面してきたのは、次のような判断です。
- 予算配分の意思決定:どのチャネルにいくら投じるかは、過去の成果だけでなく事業全体の状況や競合環境を踏まえた総合判断が必要です。AIは選択肢を整理できますが、責任を持って決めるのは人です。
- 成果の因果関係の見極め:数値が動いたとき、それが施策の効果なのか、季節要因や外部環境の変化によるものなのかを見極めるには、業界特有の背景知識と複数の仮説を検証する経験が欠かせません。
- 表現規制のリスク判断:景品表示法・薬機法など業法に関わる表現は、最終的なリスク判断を人が行う必要があります。AIが生成した文章をそのまま使うのは、この観点で特に注意が必要です。
- 第三者としてのブレーキ役:社内の意思決定は、担当者の思い入れや過去の成功体験に引っ張られやすいものです。外部の視点は、その偏りに気づく役割を担っています。
これらに共通するのは、「正解の選択肢を出す」ことではなく「責任を持って選び、間違えたときに軌道修正する」という判断の部分です。AIは選択肢を広げてくれますが、選ぶ責任そのものを肩代わりしてはくれません。この線引きこそが、内製化を検討するうえでもっとも重要な論点だと思います。
「内製化する/外部に任せる」の判断基準
内製化の可否は、業務の種類によって機械的に決まるものではなく、「その業務にどんな判断が求められるか」で考えると整理しやすくなります。
| 業務の性質 | 内製化のしやすさ | 理由 |
|---|---|---|
| 定型的な制作・集計作業(文章の初稿、レポート集計等) | しやすい | AIが型を再現しやすく、失敗しても手戻りのコストが小さい |
| 専門知識が必要だが再現性がある作業(SEOの基本設定、広告の初期設定等) | 条件付きで内製化しやすい | 学習コストはかかるが、一度型を作れば社内で回せる |
| 業界特有の暗黙知が必要な判断(予算配分、優先順位付け) | 難しい | 過去の失敗事例や業界動向の蓄積が必要で、AIだけでは代替しにくい |
| 法規制・リスクに関わる最終判断 | 難しい | 誤った場合の影響が大きく、第三者によるチェック機能が必要 |
この表を実務で使うときは、まず「今どの業務を、どの段階まで内製化したいのか」を自社の言葉で書き出してみることをおすすめします。すべてを一律に内製化しようとすると、表の右側(暗黙知・リスク判断が必要な業務)まで社内だけで抱え込んでしまい、かえって判断ミスのリスクを高めてしまうことがあるからです。表の左側から着手し、右側は後回しにする、という順番を意識するだけでも、内製化の進め方はだいぶ変わってきます。
表だけでは判断しにくい業務もあるはずです。そのときは、次の問いを自社の業務に当てはめて考えてみてください。
- その業務でミスをした場合、法令違反・信用の毀損・大きな機会損失など、取り返しのつかない実害につながるか
- 過去の失敗事例や業界特有の暗黙知が、成果を大きく左右する業務か
- 判断のたびに、過去データ・競合動向・現場の肌感覚など複数の情報源を統合する必要があるか
- 一度型を作れば、次回以降は同じ手順で再現できる業務か、それとも毎回状況が変わる業務か
- 社内に、最終的に責任を持って判断できる人がすでにいるか
1〜3の問いに「はい」が多いほど、表の右側(内製化が難しい領域)に近いというのが目安です。逆に4・5が「はい」であれば、内製化を進めやすい業務だと考えられます。
内製化を進める3つのステップ|小さく始める→体制を作る→拡張する
内製化は、いきなり全業務を切り替えるのではなく、「小さく始める→体制を作る→拡張する」の3段階で進めると、途中で「思っていたのと違う」という手戻りを防ぎやすくなります。
ステップ1:小さく始める(業務を選び、AIで試す)
- 現在の業務を洗い出し、「型がある作業」と「判断が必要な作業」に分ける
- 「型がある作業」の中から、まずAIに任せる業務を1〜2個選ぶ
- 実際にAIで運用してみて、品質のばらつきと工数削減の実感を確認する
ステップ2:体制を作る(誰が責任を持つかを決める)
前章で触れた属人化のリスクに対応するため、判断が必要な業務については早い段階で責任の所在を決めておきます。
- 「判断が必要な作業」については、社内で誰が最終責任を持つかを決める
- AIの出力を確認・修正する担当者を明確にし、ダブルチェックの流れを作る
- 内製化しない領域について、外部パートナーとの役割分担を明文化する
ステップ3:拡張する(対象業務と体制を広げる)
- ステップ1で試した業務の運用が安定したら、対象業務を1〜2個ずつ増やす
- 社内でAIを使いこなせる人材を育て、特定の担当者への依存を減らす
- 対象業務を拡張するたびに、ステップ2で決めた責任者・チェック体制を見直す
一足飛びにすべてを内製化しようとすると、判断が必要な業務まで巻き取ってしまい、かえって意思決定の質を落とすリスクがあります。ステップを踏むこと自体が、リスクを抑えながら内製化の範囲を広げる方法です。
なお、ステップ2・3は、社内にAIを使いこなせる人が育っているかどうかで進み方が変わってきます。社内にAIを使いこなせる人材をどう育てるかも、内製化の設計とあわせて検討していく価値のあるテーマです。
内製化と外部活用のハイブリッド運用|組み合わせ方の具体例
前章では、業務ごとに内製化のしやすさを判断する基準を見てきました。ここでは視点を一段上げて、その判断を会社全体の運用としてどう組み合わせるかを見ていきます。
内製化を検討する企業の多くが陥りやすいのは、「内製化するか、外部に任せ続けるか」という二択で考えてしまうことです。実際には、業務ごとに内製化と外部活用を組み合わせる「混合型」が現実的な選択肢になることが多いと感じています。
例えば、日々の広告文の作成やレポート集計はAIを使って社内で回しつつ、予算配分の意思決定や年間の戦略設計は外部パートナーと一緒に行う、という分担です。この分担であれば、内製化によって浮いた時間を、社内でしか判断できない業務に振り向けることができます。
正直に書くと、当社のようなマーケティング支援会社にとって、これは楽観できる話ではありません。これまで外部に発注されていた制作・集計業務の一部は、今後さらに内製化が進んでいくと見ています。実際、当社が受ける相談も、この数年で「広告運用を丸ごと任せたい」というものから、「社内でここまでは巻き取ったので、その先の設計と判断を一緒にやってほしい」というものへと重心が移ってきました。
だからこそ当社自身も、提供する価値の中心を変えてきました。制作や集計の代行そのものを担う比重を減らし、「どこを内製化し、どこを外部に残すかの設計」と「内製化した後の予算配分・優先順位づけといった意思決定の支援」に軸足を移しています。これは、内製化を否定する立場からではなく、内製化が進むことを前提にした立場からの変化です。マーケティング支援という仕事の中身は、この数年で確実に変わりつつあると実感しています。
実際にどう組み合わせるかは、事業のフェーズや社内体制によって変わりますが、支援の現場でよく見る型を整理すると、次のようになります。
| パターン | 内製化する範囲 | 外部に残す範囲 | 向いている状態 |
|---|---|---|---|
| 制作内製型 | 広告文・LP構成案・SNS投稿などの制作 | 予算配分・年間の戦略設計 | 型がある制作業務から内製化を始めたい段階 |
| スポット外部型 | 日常的な運用・レポーティング | 繁忙期や専門性の高い施策のみ外部にスポット依頼 | 通常業務は回せるが、突発的な専門対応が必要な段階 |
| 顧問・レビュー型 | 実行・制作のほぼすべて | 定例での意思決定レビュー・第三者チェックのみ外部 | 内製化がある程度進み、判断の壁だけが残っている段階 |
| チャネル分業型 | 一部のチャネル(例:SNS運用) | 専門性の高い別チャネル(例:広告運用)は外部に残す | チャネルごとに社内の得意・不得意がはっきりしている段階 |
どのパターンが適切かは、前章の判断基準(業務の性質×内製化のしやすさ)と照らし合わせて考えると選びやすくなります。重要なのは、パターンを固定的に決め切ることではなく、内製化を進める3ステップで内製化の範囲が広がるにつれて、組み合わせ自体も見直していくことです。

よくある質問
マーケティングの内製化とは何ですか? これまで外部パートナーに委託していたマーケティング業務を、自社の人員と仕組みで実行できる状態にすることです。詳しくは本記事の該当章をご覧ください。
マーケティングを内製化するメリットは何ですか? 外部への発注コストや調整コストを減らせる点、社内にノウハウが蓄積されやすくなる点が主なメリットです。ただし、判断が必要な業務まで内製化すると、かえって意思決定の質が下がるリスクもあります。
AIを使えば、マーケティングはすべて内製化できますか? すべてを内製化するのは難しいというのが私たちの考えです。定型的な制作・集計作業はAIで内製化しやすくなっていますが、予算配分や表現規制に関わる最終判断は、引き続き人の責任ある判断が必要です。
内製化と外部への依頼は、どちらか一方を選ぶべきですか? どちらか一方を選ぶ必要はありません。業務ごとに内製化と外部活用を組み合わせる考え方が現実的だと考えています。
マーケティングの内製化は、どのくらいの期間で進められますか? 業務の複雑さや社内のリソースによって大きく異なるため、一律の期間をお伝えすることは難しいというのが実情です。最初から全業務を切り替えるのではなく「小さく始める→体制を作る→拡張する」の順で段階的に進めることで、無理なく範囲を広げやすくなります。
内製化を進めると、外部への依頼費用は必ず減りますか? 制作・集計といった定型業務のコストは減らせる可能性がありますが、内製化の立ち上げ期にはツール導入や教育のコストがかかります。また、判断業務まで内製化しようとすると、かえって意思決定の質が下がるリスクがある点は前述のとおりです。コスト削減だけを目的に内製化を進めると、想定した効果を得られないまま終わってしまうケースがある、という声は支援の現場でもよく耳にします。「何を内製化し、何を外部に残すか」を先に整理することをおすすめします。
まとめ
AIによってマーケティングの内製化のハードルが下がったのは事実です。当社自身も、社内の業務の多くをAIを使った仕組みに置き換えてきました。一方で、判断そのものを肩代わりしてくれるわけではないという実感も、日々の支援の中で強く持っています。
大切なのは、「内製化するかどうか」を一括りに決めることではなく、業務ごとに「AIに任せる部分」と「人が責任を持つ部分」を分けて設計し、小さく始めて体制を整えながら範囲を広げていくことです。「どこまで自社で巻き取れそうか、まだ言語化できていない」という段階の方も多いのではないでしょうか。
当社では、マーケティング部門を起点にしたAI導入・内製化の設計を一緒に整理するところからお手伝いしています。「内製化と外部活用の線引きを一度整理したい」という段階でも、ぜひお気軽にご相談ください。
自社のAI導入・AI活用について相談したい場合は、企業からのご相談もご検討ください。



