AIタレント名鑑

コラム

中小企業のAXはどう進めるか|現実的なAI活用の始め方と自社実践

専任のAI推進室も情シスもない中小企業が、生成AIでAX(AIトランスフォーメーション)を進める現実的な手順を、malna自身が全社導入を実行した記録をもとに整理します。

公開日:2026年8月9日

執筆・編集:malna編集部(編集方針

中小企業のAXはどう進めるか|現実的なAI活用の始め方と自社実践

「AX(AIトランスフォーメーション)」という言葉を見て、大企業の事例ばかりが紹介されているのを見たことはありませんか。専任のAI推進室があり、情報システム部門があり、まとまった予算がある会社の話です。うちには専任の部署も情シスもない、そんな会社にそのまま当てはまるとは思えない。そう感じている中小企業の経営者・部門長の方は多いのではないでしょうか。

当社malna(マルナ)は、社員十数名のマーケティング支援会社です。自分たちも情シスのない、まさにその「中小企業」の側にいます。本記事では、大企業のAX事例を横に置き、生成AIを使って当社自身が実際にAXを進めてきた記録をもとに、中小企業がAXに現実的に着手する方法をご紹介します。

はじめに

独立行政法人中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(調査対象10,000社、有効回答1,668社)によると、中小企業のAI導入率は20.4%、導入を検討している企業を合わせると39.0%が前向きな結果を示しています。そして、導入済みの企業のうち82.6%が「生成AI」を利用しており、他のAIサービスと比べても生成AIの活用が特に進んでいるという結果でした(出典:中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」2026年3月)。

一方で、同調査では「成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている」という項目に「あまり当てはまらない・全く当てはまらない」と答えた企業が83.3%にのぼっています。導入自体は決して珍しくなくなっているのに、「自社の規模でどう進めればいいか」の情報が足りていない。これが、中小企業のAX(AIトランスフォーメーション)が置かれている状況だと当社は捉えています。

当社は2018年の創業以来、マーケティング支援を中心に事業を続けてきました。専任の情報システム部門を持ったことは一度もありません。その状態のまま、社内の業務を生成AIで作り直す取り組みを進めてきました。本記事は、その一次情報としての記録です。

「AX」とは何か——本記事で扱う範囲

AX(AIトランスフォーメーション)とは、生成AIやAIエージェントを使って、業務の進め方や意思決定の仕方そのものを変えていく取り組みを指す言葉です。DX(デジタルトランスフォーメーション)がデータや業務の基盤を整えることに重心があるのに対し、AXはその先で「AIに何を任せ、何を人が握るか」を決めていく取り組みだと当社は理解しています。一般的には「AIによる業務・事業構造の変革」と説明されることが多い言葉ですが、当社は特に、意思決定のスピードと業務の仕分け方が変わる点にAXの本質があると考えています。

AXという言葉の由来やDXとの違いのより詳しい整理は、AX(AIトランスフォーメーション)とは?DXとの違い・進め方・企業の取り組みで総論として扱っています。本記事では、大企業向けの一般論ではなく、「専任部署のない中小企業がAXを進めるときに、実際に何が壁になり、どう乗り越えるか」という実務の部分に絞ってご紹介します。

大企業のAX事例が、そのまま中小企業に使えない理由

AXの記事や事例を検索すると、上位に出てくるのは大企業の取り組みばかりです。大企業の事例を読んでも「参考にならない」と感じてしまうのには、いくつかの理由があると当社は考えています。

専任部署も情シスもない

大企業のAX事例は、たいてい専任のAI推進室や情報システム部門が主導しています。ツールの選定・セキュリティ審査・全社への周知は、専任の担当者が時間をかけて行うものです。

中小企業には、そのための専任担当者がいないことがほとんどです。経営者自身か、日常業務と兼務している数名が推進役を担うことになります。「まず推進室を立ち上げる」という大企業の型を、そのまま持ち込むことはできません。

予算の桁が違う

大企業のAX事例では、複数のツールを並行導入し、外部コンサルティングを入れて全社研修を実施する、といった規模の投資が前提になっていることが多くあります。

中小企業がそれと同じ予算感で動こうとすると、費用対効果を見極める前に息切れしてしまいがちです。まず小さく始めて、成果を確認しながら広げていく進め方が現実的だと当社は感じています。

一方で、生成AIサービス自体は、個人・小規模チーム向けの少額プランから使えるものも多く、大企業のような大規模なシステム投資と比べると着手のハードルは下がっています。予算がまとまってからでないと動けないというわけではありません。また、中小企業のデジタル化・AI導入を対象とした補助金制度(中小企業庁「デジタル化・AI導入補助金」など)が用意される年度もあります。対象要件や補助率、申請スケジュールは年度ごとに変わるため、活用を検討する場合は断定的な案内はせず、中小企業庁の補助金事業ページ(デジタル化・AI導入補助金2026)で最新の公募要領を確認することをおすすめします。

「守り」より「回す」が先に来る

大企業では、セキュリティ・ガバナンス・法務レビューといった「守り」の設計を先に固めてから展開することが多くなります。組織が大きいほど、一部の誤用が全社的なリスクになりやすいためです。

中小企業では、意思決定者と現場の距離が近く、経営者が「これは使っていい」「これは慎重に」を都度判断しながら進めることができます。守りを固めてから動くのではなく、動きながら整えていく方が、規模に合っているケースが多いのではないでしょうか。もちろん、個人情報や機密情報の取り扱いに関するルールは、規模にかかわらず最初に決めておく必要があります。生成AIの社内ルールの具体的な作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で扱っています。

当社自身が全社AXを実行した記録

ここからは、当社自身がAXを進めてきた経緯を、実際にあったことに沿ってご紹介します。当社は業種としてはマーケティング支援会社ですが、ここでご紹介する内容は「マーケ業務のAI活用」ではなく、経理・総務・採用・記事制作といった社内業務全体をどう仕分け、どう変えたかという記録です。業種を問わず、専任部署のない中小企業であれば参考にしていただける部分だと考えています。

きっかけ——代表が1週間で全社導入を決めるまで

当社がClaude Code(クロードコード)を使った全社的な業務改革に着手したのは、代表の高橋がこのツールに触れたことがきっかけでした。触れてから数日で、オンボーディングフローの整備、会議の文字起こしの仕組み化、請求書発行・回収プロセスの自動化など、それまで人がかけていた時間を伴う作業が次々にAIで組み直せることがわかりました(詳しくは当社代表が2026年2月に公開したnote記事「Claude Codeに触れて衝撃。malnaを1週間で"AIネイティブ"な企業に変えると決めた話」に記しています)。

この気づきから、代表は1週間で全社導入を決めました。専任の情シスに検証させてから広げる、という進め方ではありません。経営者自身が数日触って「これは仕事のやり方が根本から変わる」と確信し、その日のうちに全社員へ導入を伝える。中小企業だからこそ取れた速さだったと当社は感じています。

業務の棚卸しで見えた「7割・3割」の線引き

全社導入の直後に行ったのは、社内の業務を一つひとつ棚卸しし、「これはAIに任せられるか」を判定する作業でした。当社の肌感覚では、業務の約7割がAIに任せられる、または任せるべきものでした。定型的なレポート作成・請求書の照合・議事録作成・日次の集計といった業務です(同note記事の続編「Claude Code全社導入して2週間。採用で大事にしたいことが変わった話。」より)。

残りの3割は、クライアントとの関係構築・戦略的な判断・創造的な提案・組織文化づくりでした。ここは人がやるべき領域として残しています。

なお、この「7割・3割」という比率はあくまで当社の当時の肌感覚であり、厳密な計測値ではありません。数字そのものより、自社の業務を一つずつ並べて「任せる領域」と「握る領域」を仕分けるという行為自体に意味があると当社は考えています。「AIを使う」という掛け声だけでは何も変わりません。この地道な棚卸しを避けて通ることはできないのではないでしょうか。

実際に変わった業務

棚卸しを経て、実際に社内の業務は次のように変わりました。数値を伴う部分は、当社代表が既にnote記事で公開している内容を引用しています。

  • 会議の文字起こし・要約:以前は月額約4,000円の外部サービスを利用していましたが、Claude Codeで音声を自動的に文字起こし・要約し、Slackに投稿する仕組みに切り替え、当該サービスは解約しました(年間約48,000円のコスト削減。同note記事より)。
  • 請求書発行・回収:毎月のプロセスを自動化し、以前は月に10〜20時間かかっていた作業の多くが人の手を離れました。代表も同記事で「漏れが発生しないようになった」と述べています。
  • 新入社員のオンボーディング:以前は都度やり方を考えながら人力で5時間ほどかけていた整備作業を、仕組みとして構築しました。この点についても、上記のnote記事に記載があります。
  • 広告レポートの作成:クライアント別の広告パフォーマンスレポートを、以前は人が集計・作成していましたが、今は自動生成される仕組みに切り替わっています。
  • 広告費の月次照合:広告費の立替額とクライアントへの請求額の突き合わせを、自動照合の仕組みで行っています。
  • 記事のレビュー体制:オウンドメディア記事の執筆時に、複数の視点からのレビュー討議を経て改善する体制が、人手を介さずに動く形で構築されています。

ここで一つ補足しておきたいことがあります。これらの仕組みは、経理や総務の担当者が自分でターミナル(コマンドライン)を操作して作ったものではありません。Claude CodeはもともとエンジニアやITに明るい人向けの開発ツールという性質を持っています。当社の場合は、推進役となるメンバーが仕組みを構築し、現場の担当者はその成果物(自動生成されたレポートやSlackへの通知など)を日々の業務として受け取って使う、という形で分業しています。「全員がプログラミングを覚える」ことがAXの前提ではありません。バックオフィス業務でのAI活用の具体例はバックオフィスのAI活用でも扱っています。

中小企業がAXを進める現実的なステップ

当社が実際に踏んだ手順を一般化すると、次のような順序になります。専任部署がない前提で組み立てているため、規模の大小を問わず参考にしやすい進め方だと考えています。

  1. 経営者自身が触れる:AXの是非を会議で議論する前に、経営者かそれに近い立場の人が実際にツールを数日使ってみます。触れずに判断すると、導入の必要性を社内に伝える説得力が弱くなります。
  2. 危機感と方向性を先に共有する:ツールの便利さを説明する前に、「なぜ今、変わる必要があるのか」を社員に伝えます。当社の場合も、代表が最初に伝えたのはツールの機能ではなく、この危機感でした。
  3. 社内業務をすべて棚卸しする:部署・個人の業務を一覧化し、「AIに任せられるか」を一つずつ判定します。中小企業は業務の数自体が大企業より少ないため、この棚卸しを完了させやすいという利点があります。
  4. 小さく始めて、成果を確認する:すべての業務を一斉に置き換えるのではなく、効果が見えやすい業務から着手し、実際に変わったかどうかを確認します。
  5. 定着するまで繰り返し伝える:一度伝えただけでは定着しません。当社でも、社内アナウンスを定期的に繰り返し、徹底できていない場面を見つけるたびに伝え続けています。

ここまでの内容を、自社の依頼として整理してみませんか

課題が固まっていない段階でも、実務でAIを使える人材への依頼内容を一緒に整理できます。

費用感と進め方を相談する

何から手をつけるか、何をやらないと決めるか

中小企業のAXでもっとも重要なのは、「何をやるか」よりも「何をやらないか」を先に決めることだと当社は考えています。予算も人手も限られているため、手を広げすぎると、どの取り組みも中途半端なまま終わってしまいがちです。

判断の目安として、当社が業務を仕分ける際に使っている考え方を表にまとめました。

判断の軸AIに任せる方向で検討する業務人が握ったままにする業務
業務の型手順が決まっている定型業務(集計・照合・要約・下書き作成)判断の余地が大きい業務(戦略決定・交渉・評価)
情報の扱い社外公開が前提の情報を扱う業務個人情報・契約条件・未公開の財務情報など機密性の高い情報を扱う業務
失敗の影響誤りがあっても人の確認で気づける・修正できる業務誤りが取引先・顧客に直接影響する業務
頻度毎日・毎週など繰り返し発生する業務一度きりで前例が少ない業務
中小企業でのAI活用を始める際の考え方を示した図
中小企業でのAI活用を始める際の考え方を示した図

機密性の高い情報を外部のAIサービスに渡す場合は、そのサービスの利用規約やデータの取り扱い方針を確認したうえで判断する必要があります。断定的に「これなら安全」と言えるものではなく、契約しているプランの規約を都度確認することをおすすめします。

やらないことを決める際は、コストの上限を先に決めておくことも欠かせません。従量課金のAIサービスは、想定以上に使われてしまうと費用が跳ね上がるリスクがあります。当社では「どこまでは試してよいか」の予算枠を決めてから着手する、という順序を徹底しています。

中小企業のAX推進でよく見るつまずき

当社自身の試行錯誤、また当社がAI導入をご支援する中で一般的に見聞きする範囲で、繰り返し目にするつまずきのパターンをご紹介します。

  • ツールの導入だけで満足してしまう:契約して使い始めたことをゴールにしてしまい、実際の業務がどう変わったかを確認しないまま止まってしまうことが少なくありません。
  • 推進する人が決まっていない:「全員で使おう」という号令だけでは、誰も本気で使い方を突き詰めません。旗を振る人が一人でも決まっているかどうかで、定着の速度は大きく変わると感じています。
  • 現場に丸投げして放置する:ツールを渡すだけで、使い方のルールや判断基準を示さないと、現場は「何をどこまで任せていいのか」がわからず使わなくなっていきがちです。
  • 最初から完璧なルールを作ろうとする:ルールを完璧に整えてから始めようとすると、いつまでも動き出せません。当社の場合も、最初は簡単な運用ルールから始め、実際の使い方を見ながら育てていきました。
  • 費用の上限を決めずに始める:従量課金のサービスで上限を決めないまま使い始めると、思わぬコストが発生する場合があります。小さく始める前提を忘れないことが大切です。
中小企業でのAI活用に取り組む経営者
中小企業でのAI活用に取り組む経営者

よくある質問

Q. 中小企業でも生成AIの導入は現実的ですか。 現実的だと当社は考えています。中小企業基盤整備機構の調査でも、中小企業のAI導入率は20.4%、検討中の企業を合わせると39.0%にのぼっており、導入済み企業の8割以上が生成AIを利用しています(2026年3月調査)。専任部署がなくても、経営者や兼務の担当者が推進役になれば着手できます。

Q. 専任の情報システム部門がなくても始められますか。 始められます。当社自身、専任の情シスを持たずに全社的な取り組みを進めてきました。むしろ、意思決定者と現場の距離が近い中小企業ほど、判断のスピードを活かせる場面が多いと感じています。

Q. 何から始めればいいですか。 まず経営者やそれに近い立場の人が実際にツールを触ってみることをおすすめします。そのうえで、社内の業務を棚卸しし、効果が見えやすい定型業務から着手する順序が現実的です。

Q. AXを進めるうえで一番よくある失敗は何ですか。 ツールを導入すること自体をゴールにしてしまい、実際の業務が変わったかどうかを確認しないまま止まってしまうことだと当社は感じています。推進する人を決め、成果を確認しながら進めることが欠かせません。

Q. どのくらいの期間で成果が見えてきますか。 業務によって差はありますが、当社の場合、着手から数日で「業務のやり方が変わる」という実感を得た業務もありました。すべての業務が同じ速さで変わるわけではないため、小さく始めて確認しながら広げていく前提を持つことをおすすめします。

さいごに

大企業のAX事例を読んで「うちには関係ない」と感じてしまうのは、当然のことだと思います。専任部署も、まとまった予算も、社内の情シスも前提にできない中小企業には、大企業の型をそのまま持ち込むことができません。

それでも、当社のように専任部署を持たない小さな会社でも、経営者が自分で触れ、業務を棚卸しし、小さく始めて広げていくことで、AXは進められます。本記事でご紹介した内容は、当社自身が実際に歩んできた過程そのものです。

「自社の規模でどう始めればいいかわからない」「何から手をつけるべきか一緒に考えてほしい」という方は、まずは当社にご相談ください。お問い合わせはこちらから承っています。

相談の前に、まずは自分たちの手でClaude Codeに触れてみたいという方には、実際に手を動かしながら学べる研修「claudecode道場」もご用意しています。あわせてご覧いただけますと幸いです。

自社のAI導入・AI活用について相談したい場合は、企業からのご相談もご検討ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

AI活用人材への依頼を相談する

課題整理の段階から、実務でAIを使える人材の活用方法を相談できます。

  • 相談した時点で契約は発生しません。
  • ご紹介にあたっての手数料は利用規約 第11条に記載しています。
  • ご紹介は、書類と面談で実務のAI活用経験を確認した人材に限られます。