コラム
AI導入補助金で「不正」になる5パターン。代行への丸投げは犯罪になる
デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の事務局は、不正行為を5パターン明示し「すべて不正であり犯罪です」と公表しています。申請手続きを本人以外が行う『なりすまし行為』や、実質無料にする販売方法が含まれます。公式の記述をもとに整理します。
公開日:2026年7月29日
執筆・編集:malna編集部(編集方針)
「補助金を使えば実質無料でAIツールを導入できます」という営業を受けたとき、それが不正にあたるかどうかを判断できるでしょうか。デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の事務局は、何が不正にあたるかを5パターン明示し、「すべて不正であり犯罪です」と公表しています。 本記事では、その公式の記述をもとに、事業者が意図せず不正に巻き込まれないための判断材料を整理します。
本記事は2026年7月29日時点の公式サイトの記述に基づいています。制度・運用は変更されるため、申請前に必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。
事務局は「不正であり犯罪」と明言している
公式サイトには次の記述があります。
IT導入補助金では、以下の行為はすべて不正であり、犯罪です。
(出典: 中小企業基盤整備機構「※重要※ IT導入補助金は不正を絶対に許しません」2025年1月23日 https://it-shien.smrj.go.jp/news/1 )
同サイトのトップページには「デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)は不正を絶対に許しません」という表示も掲げられています。制度側が能動的に警告を出している領域だと理解しておく必要があります。
不正にあたる5パターン
公式が列挙している内容です。
| # | 不正にあたる行為 |
|---|---|
| 1 | 本補助事業と同一の内容で、国(独立行政法人を含む)から他の補助金・助成金等の交付を重複して受けていた場合 |
| 2 | 事業期間中および補助金交付後に、不正行為・情報の漏洩等の疑いがあり、補助事業者として不適切な行為を行っていた場合 |
| 3 | ITツールが導入されていない、役務の提供がなされていない等、補助事業が遂行されていない場合 |
| 4 | 補助事業者自身が行うべき行為(申請マイページの開設およびその後の交付申請における手続き等)を、当該補助事業者以外が行っていた場合(なりすまし行為) |
| 5 | ITツールの販売金額に占める補助事業者の自己負担額を減額または無償とするような販売方法、あるいは一部の利害関係者に不当な利益が配賦されるような行為 |
(出典: 同上)
実務でいちばん誤解されやすいのは4番
4番の「なりすまし行為」は、悪意がなくても該当しうる項目です。
公式の記述は「補助事業者自身が行うべき行為(申請マイページの開設およびその後の交付申請における手続き等)を、当該補助事業者以外が行っていた場合」です。つまり、申請作業を支援業者や代行業者に任せきりにして、マイページの開設や申請手続きを代わりにやってもらうと、これに該当します。
「忙しいので全部やってもらった」という状態は、制度上は不正として扱われる構造になっています。支援業者に相談すること自体が問題なのではなく、本人が行うべき手続きを本人以外が行うことが問題です。
なお、申請代行費そのものも補助対象外経費として公募要領に明記されています(出典: 中小企業基盤整備機構「デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠 公募要領」 https://it-shien.smrj.go.jp/pdf/it2026_koubo_tsujyo.pdf )。
5番は「実質無料」の営業がそのまま該当する
5番には、公式が具体例を2つ挙げています。
例① ポイント・クーポン等(現金に交換可能なものを含む)の発行・利用を行うことでITツールの購入額を減額・無償とすることにより、購入額を証明する証憑に記載の金額と実質的に支払われた金額が一致しない場合。 例② ITツールの購入額の一部又は全額に相当する金額を口座振込や現金により申請者へ払い戻すことにより、購入額を証明する証憑に記載の金額と実質的に支払われた金額が一致しない場合。
「補助金を使えば自己負担ゼロで導入できます」という提案は、この構造に該当する可能性があります。 補助率は通常枠で1/2以内(要件を満たす場合2/3以内)なので、制度上、自己負担は必ず発生します。それがゼロになるという説明が成り立つとすれば、証憑と実際の支払額が一致しない仕組みが入っていることになります。
判断の目安として、証憑に書かれた金額と、実際に自社の口座から出ていく金額が一致しているかを確認してください。ここがずれる提案は、内容を問わず慎重に扱う必要があります。
立入調査と措置の内容
事務局は調査を実施しています。
事務局では、本補助金の交付規程の定めに則り、IT導入支援事業者、補助事業者に対し、現地確認を含めた立入調査を行っております。
そして交付規程・公募要領に反する事実が確認された場合、または立入調査に正当な理由なく応じなかった場合の措置として、次が挙げられています。
- IT導入支援事業者の登録取消
- 補助事業者の交付決定の取消
- 事業者名の公表
- 中小機構が所管するすべてのIT導入補助金事業での登録取消
- 警察への通報
(出典: 同上)
事業者名の公表と警察への通報が明記されている点は重く受け取るべきです。金銭的な返還だけで終わらない可能性があります。
気づいた後でも返還を受け付けている
公式にはこう書かれています。
不正関与の認識が有るにもかかわらず補助金を受け取ってしまった場合や、補助金受け取り後に不正関与に気づいた場合などについては、後年手続きによる補助金の返還を受け付けております。
また、トップページの重要なお知らせにも「デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)は補助金の自主的な返還を受け付けています」という項目が掲載されています。
すでに受け取ってしまった場合の出口が用意されているということです。気づいた時点で放置するより、事務局に相談するほうが選択肢が残ります。
情報提供の窓口も開設されている
事務局は不正に関する情報提供の専用WEB窓口を設けています。提供された情報の取扱いについては、個人情報を連絡手段としてのみ利用し、告発しようとしている事業者を含む第三者へ提供することはないと明記されています(出典: 中小企業基盤整備機構「不正に関する情報提供の専用WEB窓口を開設しました」2024年10月31日 https://it-shien.smrj.go.jp/news/20255 )。
不審な提案を受けた側からも通報できる経路があるということです。
発注側が確認すべきこと
支援業者・ベンダーからの提案を受ける際、次の点を確認しておくと判断しやすくなります。
| 確認事項 | なぜ確認するか |
|---|---|
| 申請マイページの開設と申請手続きを自社で行う前提になっているか | 本人以外が行うと「なりすまし行為」に該当する |
| 証憑の金額と実際の支払額が一致するか | 一致しない仕組みは5番に該当しうる |
| 自己負担が発生する前提になっているか | 補助率は1/2以内(または2/3以内)。ゼロにはならない |
| 提案されたITツールが事務局に登録済みか | 登録されていないツールは補助対象外 |
| 契約・発注を交付決定後に行う手順になっているか | 交付決定前の契約・発注は補助対象外 |
| 同じ内容で他の補助金を申請していないか | 国からの重複受給は1番に該当する |
まとめ
デジタル化・AI導入補助金では、不正にあたる行為が5パターン明示され、事務局が「犯罪です」と公表しています。措置には事業者名の公表と警察への通報が含まれます。
実務で誤解されやすいのは、申請手続きを支援業者に任せきりにすると「なりすまし行為」に該当することと、「実質無料」の提案は証憑と実支払額の不一致という不正の構造そのものであることです。どちらも、事業者側に悪意がなくても該当しうる形になっています。
相談すること自体は問題ではなく、本人が行うべき手続きを本人が行うかどうかが分かれ目です。判断に迷う提案を受けた場合は、事務局の相談窓口や公的機関に確認するのが確実です。
補助金を使うかどうかを含めて、どの業務からAIを入れるべきかの整理から相談したい場合は、企業からのご相談もご検討ください。オンラインでの打ち合わせを基本としつつ、必要に応じて訪問しての対応も可能です。無料で使える公的窓口は都道府県別のページにまとめています。
なお本記事は公式サイトの記述を整理したものであり、個別の行為が不正に該当するかの判断は、事務局および必要に応じて弁護士等の専門家にご確認ください。
