コラム
建設業でAI活用人材をどう活かすか:2024年問題と書類業務の切り分け方
施工管理・積算・見積・安全書類・日報といった建設業固有の業務量を前提に、AI活用人材へ任せられる範囲と、現場判断・安全責任が伴うため任せてはいけない範囲を、国土交通省・厚生労働省・総務省の公表資料をもとに整理します。
公開日:2026年7月26日
執筆・編集:malna編集部(編集方針)

建設業では2024年4月から時間外労働の上限規制が適用され、働ける時間そのものに法的な上限がかかりました。一方で担い手は減り続けており、就業者を増やして総労働時間を確保するという解決策は現実的に取りにくくなっています。この状況で残る選択肢は、一人あたりが処理しなければならない業務量を減らすことです。本稿では、施工管理・積算・見積・安全書類・日報といった建設業固有の業務を対象に、AI活用人材へ任せられる工程と、現場判断や安全責任が伴うため任せてはいけない工程の線引きを、公表資料の数値をもとに整理します。
労働時間の上限と担い手減少が同時に効いている
建設業には5年間の適用猶予が設けられていましたが、令和6(2024)年4月から時間外労働の上限規制の適用が開始されました。上限は原則として月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情がある場合に36協定へ特別条項を定めても、時間外労働は年720時間まで、時間外労働と休日労働を合わせて1か月100時間未満・2〜6か月平均80時間まで、月45時間を超える時間外労働は年6回までという上限を超えることはできません(出典:厚生労働省「建設業従事者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」https://kensetsu-roudou-jikan.mhlw.go.jp/kensetsu_overtime.html )。これは労使が合意しても超えられない法的な上限です。いわゆる建設業の2024年問題は、この上限と現場の業務量が噛み合っていないことから生じています。
出発点の労働時間水準そのものが他産業より高い点も見過ごせません。国土交通省が厚生労働省「毎月勤労統計調査」をもとに作成した資料では、建設業の年間出勤日数は調査産業計と比べて10日多く、年間の総実労働時間は48時間長いとされています。平均的な休日の取得状況は全体で「4週6休程度」が最多で、4週8休(週休2日)以上を確保できているのは技術者で28.6%、技能者で29.4%にとどまります。民間工事の受注がほとんどの企業ではさらに低く、技術者15.8%、技能者9.0%です(出典:国土交通省「参考資料集」(令和8年4月3日)https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001994097.pdf )。
担い手側の数字も厳しい状況です。建設業就業者は平成9年の685万人をピークに令和7年時点で478万人まで減少し、うち技能者は455万人から296万人へ減っています。年齢構成は55歳以上が36.6%、29歳以下が11.9%です(出典:国土交通省「参考資料集」(令和8年4月3日)https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001994097.pdf )。技能者に絞ると60歳以上が全体の約25%を占める一方、29歳以下は約12%です(出典:国土交通省「第三次・担い手3法 改正の背景」https://ninaite-sanpo.mlit.go.jp/background/ )。人を増やして時間を確保する方向に頼れないという前提が、数字として明確に出ています。
業務量がどこに溜まっているか
建設業の業務は、現場で施工そのものを進める工程と、その施工を成立させるために発生する書類・数量・記録の工程に分かれます。後者は現場と事務所の双方に分散して発生するため、総量が把握されにくいという性質があります。
| 業務 | 発生の性質 | 負荷の出方 |
|---|---|---|
| 施工管理(工程調整・写真管理・進捗記録) | 工事期間中ほぼ毎日発生 | 現場作業の前後や休憩時間に押し込まれ、残業時間に転化しやすい |
| 積算・数量拾い | 入札・見積の都度発生 | 図面読解と転記が混在し、繁忙期に集中する |
| 見積書・実行予算の作成 | 案件ごと、変更ごとに再作成 | 単価・様式の使い回しが属人化しやすい |
| 安全書類(施工体制台帳・作業手順書・KY記録等) | 着工時と日々の作業単位で発生 | 元請ごとに様式が異なり、下請側で重複作業になりやすい |
| 日報・作業報告 | 毎日、作業員・現場単位で発生 | 手書きやFAXが残り、事務所側で再入力が発生する |
| 発注者・元請とのやり取り | 随時 | 電話・FAX中心だと記録が残らず、確認の往復が増える |
この6つに施工そのものは含まれていません。施工管理の一部を除けば、いずれも情報を集めて所定の様式に落とし込む作業であり、現場での判断とは切り離せます。AI活用人材が関与できるのはこの領域です。
紙・FAX運用が残っていることが効率化の前提を崩している
建設業の書類業務が重い理由の一つは、そもそもデータになっていないことです。国土交通省の調査では、建設業の電子契約の導入割合は「全て書面契約」が83.0%、「一部電子契約」が15.3%、「全て電子契約」が1.7%でした(N=9136、令和5年度調査)。ICT施工に取り組んでいる建設会社は37%で、取り組んでいないが63%を占めます(N=1496、(一社)全国建設業協会調べ、令和6年度)。1社平均のソフトウェア投資額も、大企業・中堅企業・中小企業のいずれの規模でも建設業は他業種より低い水準にあります(出典:国土交通省「参考資料集」(令和8年4月3日)https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001994097.pdf )。
紙とFAXで完結している業務は、AIに渡す入力がそもそも存在しません。この状態でAIツールだけを導入しても、現場から届いた紙を誰かが打ち込む工程が増えるだけになりかねません。建設業でAI活用人材に最初に依頼すべきことは、多くの場合ツールの選定ではなく、どの情報をどこでデータとして受け取るかという入口の設計です。
制度面もこの方向を向いています。令和6年に成立した第三次・担い手3法では、生産性向上の柱としてICTを活用した現場管理の効率化が位置づけられ、特定建設業者・公共工事受注者に対するICT活用による現場管理の努力義務化、元請による下請への指導の努力義務化、国によるICT指針の作成が定められました。同指針のバックオフィス関連項目には、元請・下請間の書類等のやり取りの合理化、電子契約等の積極的活用が挙げられています(出典:国土交通省「参考資料集」(令和8年4月3日)https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001994097.pdf )。
AIに任せられる業務と、任せてはいけない領域
建設業の業務を、AI活用人材への適性という観点で整理すると次のように分けられます。線引きは工事の種類・元請下請の立場・社内の体制によって変わるため、あくまで整理の一例です。
| 業務 | AIへの適性 | 任せ方 | 前提・注意点 |
|---|---|---|---|
| 日報・作業報告の入力と集計 | 高い | フォーマット設計と集計自動化まで外部人材に任せやすい | 入力の入口をデータ化するところから設計する |
| 施工写真の整理・命名・台帳への紐づけ | 高い | 分類ルールの設計と一次処理を任せられる | 提出前の確認は現場担当が行う |
| 打ち合わせ・現場定例の議事録作成 | 高い | 録音からの要約と共有フォーマット化 | 発注者情報の取り扱い範囲を事前に決める |
| 見積書・実行予算の初稿作成 | 高い | 過去案件と単価表をもとにした初稿まで | 金額の妥当性判断と提出可否は社内が担う |
| 積算・数量拾いの下準備 | 中 | 図面からの転記・チェックリスト化の補助まで | 拾い漏れの最終確認は積算担当が行う |
| 安全書類・作業手順書の様式整理と下書き | 中 | 様式変換・記載漏れの一次チェックの仕組みづくりまで | 記載内容の妥当性判断は有資格者が担う |
| 元請提出書類の様式差分の吸収 | 中 | 様式マッピングの整理と変換フローの構築 | 提出前の内容確認は社内に残す |
| 発注者・元請とのやり取りの記録化 | 中 | 記録の型づくりと検索できる状態への整備 | 契約・工期に関わる回答の判断は社内が行う |
| 現場での安全確認・危険予知の判断 | 低い | AIや外部人材に委ねない | 労働安全衛生法上の責任を伴う領域 |
| 施工品質の判断・施工方法の最終決定 | 低い | AIや外部人材に委ねない | 監理技術者・主任技術者が担う領域 |
とくに注意が必要なのは安全と品質に関わる領域です。安全書類には「書類を整える工程」と「その内容が実際の作業と合っているかを判断し、責任を負う工程」が同居しています。前者はAIで効率化できますが、後者は労働安全衛生法や建設業法上の資格・責任に紐づく判断であり、AIが作成した書類をそのまま提出・運用する前提で設計してはいけません。当日の天候や人員配置を踏まえて作業を止めるといった判断も同様です。AI活用人材の役割は、有資格者がこの判断に使える時間を増やすことであって、判断そのものを代替することではありません。
元請・下請構造が生む重複を洗い出す
建設業に特有の負荷として、同じ内容の書類を元請ごとに異なる様式で作り直す作業があります。国土交通省の資料では、完成工事高の小さい中小事業者においてICT化・業務効率化の取組が遅れているとされ、下請に提出を求める書類の見直し状況も完成工事高の規模別に差が示されています(出典:国土交通省「参考資料集」(令和8年4月3日)https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001994097.pdf )。下請側は取引先ごとの様式に合わせざるを得ないため、この重複は自社の努力だけでは減らしにくい構造にあります。
ただし様式が違っても記載する情報の中身は重複していることが多く、社内の一次情報を一度整えておけば、様式への展開は変換の問題に落とし込めます。多能工化で一人が複数の役割を持つ現場ではなおさら、作り直しの工数を圧縮する設計は自社で着手できる範囲です。
導入が止まる理由は技術より進め方にある
生成AIの導入が進まない理由は、建設業に限らず進め方の設計に集まっています。総務省「令和7年版 情報通信白書」によると、生成AI導入に際しての懸念事項として日本で最も多く挙げられたのは「効果的な活用方法がわからない」で、次いで「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」「ランニングコストがかかる」でした。生成AIの活用方針を定めている日本企業の比率は2024年度調査で49.7%(2023年度調査は42.7%)ですが、中小企業では「方針を明確に定めていない」との回答が約半数を占めます。実際の利用状況では、何らかの業務で生成AIを利用していると回答した割合は日本で55.2%、「メールや議事録、資料作成等の補助」での利用は47.3%でした(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」企業におけるAI利用の現状 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112220.html )。
すでに使われている用途は資料作成や議事録といった書類系の補助に集中しており、建設業で負荷が溜まっている領域と重なっています。ボトルネックは技術ではなく、自社のどの業務にどう当てるかを決める役割が社内にいないことだと考えられます。
この役割を専任で置く動きは建設業内にも既にあります。国土交通省は建設業の新たな活動領域の例として建設ディレクターを挙げており、施工体制台帳・安全書類・写真管理といった各種書類作成と、ドローン測量などのICT業務を担って現場技術者をサポートし、技術者業務の削減・業務効率化に寄与する役割と説明しています(年齢比率は10〜20代が42%、男女比率は女性が72%。出典:国土交通省「参考資料集」(令和8年4月3日)https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001994097.pdf )。現場技術者から書類とICTの工程を切り出して別の担い手に渡す発想は、建設業で先行して形になっています。AI活用人材の受け入れは、この切り出しをさらに進める選択肢です。
着手順序:入口のデータ化から始める
現実的な進め方は、影響範囲が小さく毎日発生する業務から始めることです。日報・作業報告の入口をデータ化し、集計を自動化するところは、施工の判断に一切触れずに着手できます。次に施工写真の整理・命名、現場定例の議事録、見積書の初稿作成へ広げ、積算や安全書類の様式整理はチェック体制を組んだうえで扱う順序が無理がありません。
外部人材に依頼する場合は、週1日程度の稼働から試すやり方が現実的です。稼働量の目安や依頼範囲の決め方は週1日のAI人材活用で何が変わるか、現場に落とし込む段階の注意点は業務改善のAI活用を現場に定着させる進め方で整理しています。効果の確認では、書類作成にかかっていた時間や日報の集計工数を着手前に記録し、削減できた時間が実際に現場管理や安全確認へ回っているかを見る必要があります。指標の置き方はAI活用のROIをどう継続測定するかで扱っています。
まとめ
建設業は、2024年4月からの時間外労働の上限規制と担い手減少が同時に効いており、一人あたりの業務量を減らす以外に打ち手が残りにくい状況にあります。負荷が溜まっているのは施工そのものではなく、施工管理の記録、積算、見積、安全書類、日報といった情報処理の工程で、電子契約が「全て書面契約」83.0%という数字が示すとおり、その多くがまだデータになっていません。AI活用人材に最初に依頼すべきは、ツール導入よりも情報の入口の設計です。一方で、現場での安全確認や施工品質の判断は労働安全衛生法・建設業法上の責任を伴う領域であり、AIや外部人材に委ねる前提で設計してはいけません。安全・法令に関わる最終判断は、必ず監理技術者・主任技術者などの有資格者および専門家の確認を経たうえで実施してください。
