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物流・運送業でAI活用人材をどう活かすか:配車・伝票業務と安全管理の線引き

2024年4月からのドライバー時間外労働上限規制と多層構造という物流固有の条件を踏まえ、配車計画・伝票処理・請求照合・日報集約などAI活用人材に任せられる業務と、点呼・運行記録のように法令上の責任が伴う領域の線引きを、国土交通省・厚生労働省の一次資料をもとに整理します。

公開日:2026年7月26日

執筆・編集:malna編集部(編集方針

物流・運送業でAI活用人材をどう活かすか:配車・伝票業務と安全管理の線引き

結論:AIに寄せるのは配車・伝票・請求の下書き、線を引くのは安全管理と法定記録

物流・運送業でAI活用人材に任せられるのは、配車計画のたたき台づくり、伝票・受発注データの転記と突合、請求・立替の照合、日報や報告資料の集約といった事務と計画の下書き工程です。一方、点呼や運行記録のように実施方法まで法令で定められた安全管理業務は、汎用のAIツールや外部人材に置き換える対象ではありません。この記事では、2024年4月に適用されたドライバーの時間外労働上限規制と、荷主・元請・実運送が重なる多層構造という物流固有の条件を踏まえて、任せる範囲をどこで切るかを整理します。

2024年4月以降、間接業務にかかった圧力

自動車運転の業務には、令和6(2024)年4月から時間外労働の上限規制が適用され、特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限は年960時間となりました(出典:厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html)。あわせて改善基準告示も改正され、拘束時間は1か月あたり原則284時間・年3,300時間以内(労使協定により年3,400時間を超えない範囲で月310時間まで延長可)、1日あたり原則13時間以内・最大15時間以内へと強化されています(出典:国土交通省「物流の2024年問題について」資料1 https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001620626.pdf)。

同じ資料では、具体的な対応を行わなかった場合に2024年度で輸送能力が約14%(4億トン相当)、その後も対応しなければ2030年度には約34%(9億トン相当)不足する可能性が示されています。またトラックドライバーは全産業と比較して年間労働時間が約2割長く、年間所得額は約1割低く、有効求人倍率は約2倍であることも記載されています。

制度上運べる時間が短くなった一方で、荷量と人手不足の構造は変わっていません。ドライバーの運転時間は運行設計で削れても、配車・伝票・請求・日報といった間接業務の量そのものは減りません。ここがAI活用人材を受け入れる余地として最初に検討される領域になります。

1運行の内訳が示す「どこに手を入れるか」

国土交通省が2024年9月19日から11月30日に実施した調査(回答2,544運行)では、トラックドライバーの1運行当たりの平均拘束時間は11時間46分で、2020年度調査の12時間26分から約40分減少しました。ただし減少の主な要因は運転時間の減少(約50分減)であり、荷待ち時間と荷役時間の合計は2020年度の3時間3分に対して2024年度は3時間2分とほぼ横ばいで、「物流革新に向けた政策パッケージ」で定めた目標値には到達していないと報告されています(出典:国土交通省「国土交通省提出資料(第17回トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会)」https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001854525.pdf)。

内訳を並べると、外部人材が関与できる工程とできない工程が分かれます。

拘束時間の内訳2020年度2024年度外部のAI活用人材が関与できる余地
運転時間6時間43分5時間54分直接は関与しない。運行計画の下書き精度で間接的に影響する
荷待ち時間1時間34分1時間28分荷主・施設側との調整が主因。実績データの集計と可視化までは任せられる
荷役時間1時間29分1時間34分庫内作業そのものは対象外。手順書・実績記録の整備は任せられる
附帯作業時間24分41分作業内容と対価の記録整理は任せられる
点検・点呼時間16分16分法令上の実施義務があり、置き換え対象にしない
休憩時間1時間58分1時間54分対象外
平均拘束時間12時間26分11時間46分

同資料では、令和10年度までに「5割の運行で、1運行当たりの荷待ち・荷役等時間を計2時間以内に削減(1人当たり年間125時間の短縮)」という目標が示されています。この目標に近づくために現場が必要とするのは、荷待ちが実際に何分発生しているかを運行ごとに記録し、荷主別・施設別に集計して交渉材料にする作業です。これは典型的な集計・整理業務であり、AI活用人材が担いやすい工程だと考えられます。逆に、荷待ちそのものを短くする交渉は荷主との商談であり、社内の営業・管理者が担う領域です。

多層構造が、事務作業を静かに増やしている

物流・運送業のもう一つの特徴は、事業者の規模と取引の階層です。国土交通省の集計では、貨物自動車運送事業者数は62,383者で、うち車両数10両以下が34,164者(54.8%)、従業員数10人以下が30,759者(49.3%)を占めます(出典:国土交通省物流・自動車局貨物流通事業課「貨物自動車運送事業者数(規模別)」令和7年3月31日現在 https://www.mlit.go.jp/common/001459429.pdf)。半数近くが従業員10人以下という構成で、専任のバックオフィス担当やDX担当を置ける事業者は多くないと考えられます。

そのうえで、令和6年法律第23号(改正物流法)により、元請事業者には事業者間の委託状況を明らかにする実運送体制管理簿の作成義務や、契約時の(電子)書面の交付義務が課されました。国土交通省の検討会とりまとめでは、全日本トラック協会が令和6年3月に取りまとめた提言で利用運送事業者や取次事業者等を含め2次下請までに制限すべきとされたことに触れる一方、事業者ヒアリングでは「そもそも自社が何次請けなのか把握できていない」という声も記録されています(出典:国土交通省「トラック運送業における多重下請構造検討会 とりまとめ」令和7年6月 https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001898301.pdf)。

この構造から生まれるのは、書面化・体制記録・受発注のやり取りといった管理事務の増加です。少人数の事業者が新しい記録義務に対応する場面では、記録フォーマットの設計、受発注メールから必要項目を抜き出す下書き作成、複数の様式に散った情報の突合といった工程が外部人材と組んで整えやすい部分だと考えられます。ただし記載内容が法令要件を満たしているかの最終確認は、事業者自身と必要に応じて専門家が担う前提です。

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業務別に見たAI適性マップ

物流・運送業の業務を、AI活用人材への任せやすさで整理すると次のようになります。実際の線引きは事業形態(実運送・元請・倉庫)や規模によって変わるため、整理の型として捉えてください。

業務内容AI活用人材への適性任せ方の前提
配車計画のたたき台作成車両・ドライバー・荷物の条件を突き合わせた案の作成高い拘束時間・休息期間の制約を満たすかの最終判断は運行管理者が行う
伝票・受発注データの転記と突合紙・PDF・メールから基幹システムへの入力と差異チェック高い差異が出た伝票は人が確認する運用を残す
請求・立替費用の照合運賃・高速代・燃料等の実績と請求内容の突合高い金額の最終承認は社内が行う
日報・実績報告の集約運行日報からの集計、荷主別・施設別の実績整理高い記録原本は改変せず、集計は別ファイルで行う
荷待ち・荷役実績の可視化荷主・施設単位の待ち時間集計と資料化高い交渉そのものは社内の営業・管理者が担う
実運送体制管理簿など記録書式の整備記載項目の整理、入力の下書き、様式の統一法令要件の適合確認は事業者と専門家が行う
庫内作業の手順書・教育資料の整備作業標準の文書化、多言語版の下書き現場での安全確認と教育実施は社内が担う
求人原稿・採用広報の作成ドライバー・庫内スタッフ向け募集要項や訴求文の下書き労働条件の記載は社内で必ず検証する
点呼の実施・記録業務前後の点呼と記録の作成低い実施方法が法令・告示で定められた領域。置き換え対象にしない
運行記録・安全管理・事故対応の判断運行記録の管理、指導監督、事故時の判断低い事業者と運行管理者の責任領域として社内に残す

要点は、上段の集計・突合・下書きと下段の安全管理・法定記録が別の性質を持つことです。前者は成果物のフォーマットが決まっており外部人材でも品質を確認しやすい一方、後者は誰が実施したかという事実そのものが法令上の要件になります。

安全管理と法定記録は、効率化の議論と別の枠に置く

点呼について、国土交通省は「運行の安全を確保するため、点呼は原則対面で実施することとされていますが、『対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法』として、遠隔点呼や自動点呼などのICTを活用した点呼が認められています」と説明しています。自動点呼は国土交通省の認定を受けた機器・システムを用いる制度であり、遠隔点呼も要件を満たす機器・システムの使用が前提です(出典:国土交通省「遠隔点呼・自動点呼 解説パンフレット」令和7年11月発行 https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001970917.pdf)。

つまり点呼のICT化は「制度と認定機器の枠内で行うもの」であり、汎用の生成AIツールを現場判断で当てはめて代替できる領域ではありません。AI活用人材との会話が業務効率化から始まると、点呼記録や運行記録も同じ「記録業務」として一括りにされやすいのですが、この2つは分けて扱う必要があります。効率化の対象にするなら、認定機器の導入検討という別の意思決定として進めるべき論点です。

社内で線引きを共有するときは、「記録を作る責任が法令上どこにあるか」を判定基準にすると迷いにくくなります。責任が事業者・運行管理者に明示されている記録は社内に残し、社内向けの集計・分析・下書きは外部に出せる、という切り方です。あわせて、運行データや荷主情報を外部人材が扱う際の取り決めも先に必要になります(参考:AI人材に依頼する際の情報漏洩対策)。

着手順序:1つの拠点・1つの帳票から

全社の配車業務や基幹システムから入るのは現実的ではありません。1つの営業所・1種類の帳票に絞り、そこで発生している転記や突合を対象にするのが着手しやすい順序だと考えられます。成果物の正解が明確で(元の伝票と一致するか)、失敗した場合の影響範囲が限定されるためです。

現場が回るかどうかは、ツールの性能よりも運用設計で決まる部分が大きいと考えられます。定着の進め方は現場でAI活用を定着させる進め方、専任担当を置けない規模の事業者がどこまで外部人材に頼れるかは週1日からのAI人材活用で扱っています。

効果を確認する指標も着手前に決めておきます。伝票処理にかかっていた時間、請求照合の差異検出件数、荷待ち実績を荷主別に出せるようになったかなど、業務単位で観測できるものが向きます。上限規制への対応状況そのものを指標にすると、AI活用の効果と運行設計の変更が混ざって評価できなくなります。

まとめ

物流・運送業は、2024年4月からの時間外労働上限規制(年960時間)と改善基準告示の強化により運べる時間の制約が強まった一方で、配車・伝票・請求・日報といった間接業務は減っていません。国土交通省の調査では1運行当たりの平均拘束時間は11時間46分まで短縮したものの、荷待ちと荷役の合計は3時間2分でほぼ横ばいであり、実績を記録して荷主別に可視化する作業の重要性が増しています。事業者の約半数が従業員10人以下という構成のなかで、この集計・突合・下書きの工程を外部のAI活用人材と分担する余地は大きいと考えられます。一方で、点呼のように実施方法が法令・告示で定められた安全管理業務は制度と認定機器の枠内で扱う領域であり、効率化の議論と同じテーブルに載せるべきではありません。1つの拠点・1つの帳票から着手し、法令上の責任がどこにあるかで線を引く。この2点が受け入れの出発点になります。なお、労働時間規制・貨物自動車運送事業法など法令に関わる最終判断は、必ず専門家にご確認ください。

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