コラム
介護・福祉事業所でAI活用人材をどう活かすか:任せられる間接業務と任せてはならない専門判断
介護・福祉事業所がAI活用人材を受け入れる際の線引きを、厚生労働省の需給推計・介護労働実態調査・個人情報ガイダンスの一次情報をもとに整理します。記録業務の下書き、シフト作成の補助、請求事務、採用広報などの間接業務に限定し、アセスメント・ケアプランの判断と身体介護は任せない前提の業務設計を解説します。
公開日:2026年7月26日
執筆・編集:malna編集部(編集方針)

結論:任せるのは記録・シフト・請求事務などの間接業務に限る
介護・福祉事業所でのAI活用は、他業種と同じ発想では設計できません。介護は利用者の生命・身体に直接関わる仕事であり、アセスメントやケアプランの判断、そして身体介護そのものは、AIにも外部人材にも任せられない領域です。
一方で、介護事業所の負担は直接ケアだけで生まれているわけではありません。日々の介護記録、ヒヤリハット報告、各種計画書の作成、複雑なシフト調整、介護報酬の請求事務、人材募集の原稿づくり、研修資料の準備といった間接業務が積み上がっています。AI活用人材に任せる範囲は、この間接業務に限定するのが出発点です。本稿では、公的統計と法令・ガイダンスの一次情報をもとに、任せられる業務と任せてはならない業務の線引きを整理します。
人手不足とシフトの複雑さ:数字で確認する
厚生労働省は令和6年7月12日、第9期介護保険事業計画の介護サービス見込み量等に基づき都道府県が推計した介護職員の必要数を公表しています。同省の「介護人材確保に向けた取組」ページによれば、2022年度の215万人に対し、2026年度には約240万人(+約25万人、6.3万人/年)、2040年度には約272万人(+約57万人、3.2万人/年)の介護職員を確保する必要があると推計されています(出典:厚生労働省「介護人材確保に向けた取組について」)。
現場の不足感も統計に表れています。公益財団法人介護労働安定センター「令和6年度介護労働実態調査」(事業所調査の実効調査数17,089事業所・有効回答9,044件・回収率52.9%)では、従業員の過不足状況について「大いに不足」10.0%、「不足」21.2%、「やや不足」34.0%で、不足とする事業所は合計65.2%と、前年度(64.7%)から0.5ポイント上昇しました。職種別では訪問介護員がもっとも深刻で、3区分の合計が83.4%、「大いに不足」+「不足」だけで58.1%に達します。介護職員はそれぞれ69.1%、36.5%です(出典:介護労働安定センター「令和6年度『介護労働実態調査』結果の概要について」、調査概要は同センター「介護労働実態調査」)。
労働者側(有効回答21,325件)の悩み・不安・不満でも、最多は「人手が足りない」49.1%、次いで「仕事内容のわりに賃金が低い」35.3%、「身体的負担が大きい」24.6%、「精神的にきつい」22.5%でした。人員が常に張り詰めた状態で、資格・経験・夜勤可否・訪問ルートといった条件を満たすシフトを組み続けなければならない構造が、管理者の時間を大きく削っていると考えられます。
記録業務は「やめる」ことができない
介護記録の負担が減らない最大の理由は、記録そのものが制度上の義務だという点にあります。個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」の別表1は、介護関係事業者に作成・保存が義務づけられている記録例として、指定訪問介護事業者について居宅サービス計画(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準第16条)、サービスの提供の記録(通称:ケア記録、介護日誌、業務日誌/同基準第19条)、訪問介護計画(同基準第24条第1項)、苦情の内容等の記録(同基準第36条第2項)を挙げています。特別養護老人ホームについては、行った具体的な処遇の内容等の記録、入所者の処遇に関する計画、身体的拘束等に係る記録、苦情の内容等の記録が列挙されています(出典:個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」)。
つまり記録業務は「削減」の対象にはならず、「同じ内容をより短い時間で、より正確に仕上げる」以外の方向がありません。ここがAI活用人材の出番であり、同時に、AIが下書きした内容をそのまま提出できない理由でもあります。制度上の記録は事業所が責任を負う文書だからです。
任せてよい業務と任せてはならない業務の線引き
介護事業所の業務をAI活用人材への適性で整理すると、次のように分かれます。実際の線引きはサービス種別や体制によって異なるため、整理の一例として捉えてください。
| 業務 | AI活用の適性 | 外部人材への委託 | 位置づけの考え方 |
|---|---|---|---|
| 介護記録・業務日誌の下書き整形、表記の統一 | 高い | 社内と協働 | 記載事実の確認と確定は担当職員が行う |
| ヒヤリハット・事故報告の記述整理と分類 | 高い | 社内と協働 | 原因分析と再発防止策の決定は事業所内で行う |
| 各種計画書の様式・記載項目のひな形整備 | 中程度 | 外部人材に任せやすい | ひな形止まり。個々の利用者への当てはめは有資格者 |
| シフト作成の補助(条件整理・たたき台作成) | 中程度 | 社内と協働 | 人員配置基準の充足確認と確定は責任者が行う |
| 介護報酬の請求事務の前段整理(突合・不備チェックの型づくり) | 中程度 | 社内と協働 | 加算要件の該当判断と請求内容の最終確認は責任者・有資格者 |
| 採用広報・求人原稿・募集ページの作成 | 高い | 外部人材に任せやすい | 利用者情報を含まない。着手しやすい領域 |
| 研修資料・手順書・マニュアルの作成 | 高い | 外部人材に任せやすい | 内容の妥当性は現場責任者が確認する |
| 問い合わせ・見学対応のFAQ整備 | 高い | 社内と協働 | 個別の相談は職員へ引き継ぐルールを先に決める |
| アセスメント・ケアプランの内容判断 | 低い。置き換えるべきでない | 社内向き | 介護支援専門員等が責任を負う専門判断 |
| 身体介護・医療的ケアの実施、緊急時の判断 | 低い。置き換えるべきでない | 社内向き | 利用者の生命・身体に直結する。委託の対象にしない |
表の下半分は、AI活用人材の関与を検討する対象そのものから外す領域です。上半分についても、外部人材が担うのは「下書き・型づくり・整理」までで、確定と責任は事業所側に残ります。
記録・請求のどこまでをAIに任せるか
記録業務であれば、定型文からの下書き生成、表記のばらつき(略語・単位・時刻表記)の統一、複数記録間の矛盾の洗い出しまでをAIに担わせ、記載事実の確認と確定は必ず担当職員が行います。AIが下書きした文面は「未確認の下書き」であることを画面上・帳票上で明示し、確定操作を経ていない記録が制度上の記録として扱われない運用にしておく必要があります。
介護報酬の請求・加算要件に関わる記録については、さらに慎重な扱いが必要です。加算の該当判断そのものはAIにも外部人材にも委ねず、AIが担うのは「必要書類が揃っているか」「記録と請求内容が突合しているか」といった機械的なチェックの型づくりに限定します。加算要件の該当判断と請求内容の最終確認は、事業所の責任者・有資格者が行う前提を崩さないことが原則です。
シフト作成も同様です。資格保有状況・夜勤可否・希望休・訪問ルートといった条件の整理とたたき台の生成はAIが担えますが、人員配置基準を満たしているかの確認とシフトの確定は責任者の判断です。効果を保証できる領域ではなく、「たたき台があることで検討時間が短くなる可能性がある」という位置づけで捉えるのが妥当だと考えられます。
制度改定で書式・要件が変わることを前提に組む
介護は制度改定のたびに書式や要件が変わる領域です。この負担の大きさは、行政側の情報発信量からも確認できます。厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」のページには、令和6年度改定に関するQ&AがVol.1(令和6年3月15日)からVol.18(令和8年7月14日)まで累積で掲載されており、改定から2年以上が経過してもなお解釈の追加が続いています(出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」)。
この前提に立つと、AI活用人材に依頼すべきものは「今の様式に最適化された自動化」ではなく、「様式が変わったときに事業所側で差し替えられる形の仕組み」だと整理できます。プロンプトやチェックリスト、記録テンプレートを外部人材が抱え込まず、事業所側で保守できる場所に置いて変更履歴を残す。この設計を最初に決めておかないと、改定のたびに外部への依存が増えます。
なお、厚生労働省は「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」(令和6年度改訂)や「介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き」「介護ソフトを選定・導入する際のポイント集」を公開しています(出典:厚生労働省「介護分野の生産性向上」)。外部人材に相談する前に、これらの公的資料で自事業所の業務を棚卸ししておくと、依頼内容の解像度が上がります。
利用者の個人情報を外部人材に渡さない業務設計
介護の間接業務をAI活用人材に任せるうえで、もっとも重要な制約が個人情報です。前掲のガイダンスは、介護関係事業者について「多数の利用者やその家族について、他人が容易には知り得ないような個人情報を詳細に知りうる立場にあり、医療分野と同様に個人情報の適正な取扱いが求められる分野」と位置づけています。
さらに、介護記録に含まれる情報の多くは要配慮個人情報に該当します。個人情報保護法第2条第3項および政令第2条は、身体障害・知的障害・精神障害(発達障害を含む)があること、医師等による健康診断等の結果、健康診断等の結果や心身の変化を理由として医師等により指導・診療・調剤が行われたことを、要配慮個人情報を構成する記述等として定めています。
外部委託についても、法第25条が委託先の監督を義務づけています。ガイダンスは「必要かつ適切な監督」に、委託契約に安全管理措置の内容を盛り込んで受託者の義務とすること、業務が適切に行われていることを定期的に確認することが含まれるとし、再委託先が不適切な取扱いを行ったことにより問題が生じた場合は、委託元の事業者が責めを負うこともあり得ると明記しています。加えて厚生労働省は、介護事業所についても「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」をはじめ各種ガイドラインを遵守する必要があるとしています(出典:厚生労働省「介護テクノロジーの利用促進」)。
以上を踏まえると、外部のAI活用人材には利用者データを渡さないという前提で業務を切り出すのが基本設計になります。情報の区分ごとに整理すると次のようになります。
| 情報の区分 | 外部人材に渡すか | 代替となる進め方 |
|---|---|---|
| 利用者の氏名・住所・連絡先 | 渡さない | 外部人材が触れない工程に業務を分割する |
| 介護記録・アセスメント票・ケアプランの実データ | 渡さない | 様式・記載項目・入力ルールのみを共有して設計を依頼する |
| ヒヤリハット・事故報告の実データ | 渡さない | 事業所側で匿名化・抽象化した「記述パターン」で検討する |
| 職員の氏名・勤務条件などの人事情報 | 原則渡さない | 職種・資格区分・勤務可能枠のみを記号化して扱う |
| 制度上の様式・加算要件・行政通知(公開情報) | 渡してよい | 一次情報のURLを共有し、解釈は事業所が確定する |
| 求人原稿・研修資料・マニュアルの素材 | 渡してよい | 利用者が特定されうる記述を除いたうえで共有する |
やむを得ず利用者情報に触れる必要がある場合は、NDAの締結、閲覧範囲の限定、保管場所と保管期間の取り決め、再委託の可否の明記、定期的な確認をセットで設計します。情報漏えい対策の具体的な進め方はAI人材に業務を任せる際の情報漏洩対策で整理しています。
現場のIT習熟度のばらつきと紙運用への向き合い方
介護事業所では、パソコンによる介護ソフトの利用は相当に進んでいます。前掲の介護労働実態調査では、「日常的に利用している」機器として「利用者情報(ケア記録・ケアプラン等)の入力・保存・転記の機能」が75.4%となり、訪問系ではタブレット端末・スマートフォンでの「利用者情報の入力の機能」が56.6%でした。一方、介護ロボットの利用率はもっとも高いものでも施設系(入所型)の「入浴を支援する介護ロボット」8.4%で、いずれも10%未満にとどまっています。導入効果については「効果がある」「やや効果がある」の合計で「昼間の業務負担の軽減」49.4%、「夜間の業務負担の軽減」44.6%と、約半数の事業所が効果を挙げています。
導入の広がり自体も確認できます。厚生労働省が公開するICT導入支援事業効果報告では、補助事業所数が令和元年度195、令和2年度2,560、令和3年度5,371と推移しています(出典:前掲「介護テクノロジーの利用促進」)。
ただし、事業所単位で導入が進んでいることと、現場の全職員が使えることは別の問題です。夜勤専従・短時間勤務・登録型ヘルパーを含む多様な働き方の職員が同じ仕組みを使う必要があり、習熟度のばらつきと紙運用の残存を前提にした進め方が求められます。総務省「令和7年版 情報通信白書」でも、生成AI導入に際しての懸念事項として日本でもっとも多く挙げられたのは「効果的な活用方法がわからない」で、次いで「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」でした。生成AIの活用方針を定めている企業の比率は2024年度調査で49.7%(2023年度調査は42.7%)にとどまり、中小企業では「方針を明確に定めていない」との回答が約半数を占めています(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」)。
この状況では、全職員に一斉展開するのではなく、1つの記録様式・1つの事業所から試し、紙で運用する職員が残ることを織り込んだ二重運用の期間を設けるほうが現実的だと考えられます。定着までの進め方は現場でAI活用を定着させる進め方、専任担当を置けない場合は週1日から依頼するAI人材の活用方法も参考になります。
まとめ
介護・福祉事業所でAI活用人材を受け入れる際の線引きは明確です。アセスメント・ケアプランの内容判断と身体介護・医療的ケアの実施は、AIにも外部人材にも任せません。任せるのは、介護記録の下書き整形、ヒヤリハット記述の整理、計画書のひな形整備、シフト作成のたたき台、請求事務の突合チェックの型づくり、採用広報、研修資料作成といった間接業務に限ります。
そのうえで、利用者情報を外部人材に渡さない形で工程を分割すること、加算要件に関わる記録の最終確認を事業所の責任者・有資格者が行う体制を残すこと、制度改定で様式が変わっても事業所側で差し替えられる仕組みにしておくことの3点を、依頼内容そのものに書き込んでおく必要があります。
なお、本稿は公開されている統計・法令・ガイダンスをもとにした整理であり、特定の効果を保証するものではありません。介護保険制度の解釈、加算要件の該当性、記録様式の適否についての最終判断は、所轄自治体および専門家にご確認ください。
