コラム
省力化投資補助金でAIは対象になるか。オーダーメイド設備という条件
中小企業省力化投資補助金の一般型は「AIツールを導入する費用」を補助する制度ではありません。対象はSIerと組んで自社業務専用に設計した設備・システムです。公募要領の定義、省力化指数の計算方法、補助上限額を整理します。
公開日:2026年7月28日
執筆・編集:malna編集部(編集方針)
「AIで省力化したいので、省力化投資補助金を使えないか」という相談は増えています。ただ、この制度の一般型はAIツールの導入費用を補助する制度ではありません。公募要領は補助対象を「オーダーメイド設備」と定義しており、その定義に当てはまらない導入は対象外です。本記事では、何が対象で何が対象外かを、公募要領の記述に沿って整理します。
本記事は2026年7月28日時点の第7回公募要領(一般型)に基づいています。締切・制度内容は変更されるため、申請前に必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。
対象は「オーダーメイド設備」
公募要領は、補助対象となる設備を次のように定義しています。
デジタル技術等を活用した専用設備(以下「オーダーメイド設備」という。)とは、ICTやIoT、AI、ロボット、センサー等を活用し、単一もしくは複数の生産工程を自動化するために、外部のシステムインテグレータ(SIer)との連携などを通じて、事業者の個々の業務に応じて専用で設計された機械装置やシステム(ロボットシステム等)のことをいいます。
(出典: 中小企業基盤整備機構「中小企業省力化投資補助事業(一般型)第7回公募要領」 https://shoryokuka.smrj.go.jp/assets/pdf/application_guidelines_ippan_07.pdf )
AIは明記されています。しかし条件が三つ重なっています。
- 生産工程の自動化を目的とすること
- 外部のSIerとの連携などを通じて構築すること
- 自社の個々の業務に応じて専用で設計されていること
つまり、既製の生成AIサービスを契約して使い始める、という形は想定されていません。市販のSaaSを買うだけでは、三つ目の「専用で設計された」に該当しないためです。
この点は制度の設計思想として一貫しており、対象外経費にも表れています。
汎用性があり、目的外使用になり得るものの購入費 (例)事務用のパソコン・プリンタ・文書作成ソフトウェア・スマートフォン・タブレット端末・カメラ(略) ※本事業でのみ使用が可能なものを除く。
汎用ソフトウェアは名指しで対象外です。ただし「本事業でのみ使用が可能なものを除く」という但し書きがあり、その事業専用に閉じた使い方であれば例外が認められる構造になっています。
対象経費の範囲
対象経費は次のとおりです。
| 経費区分 | 備考 |
|---|---|
| 機械装置・システム構築費 | 必須。これがない申請は成立しません |
| 運搬費 | |
| 技術導入費 | |
| 知的財産権等関連経費 | |
| 外注費 | |
| 専門家経費 | |
| クラウドサービス利用費 |
機械装置・システム構築費が必須である点が重要です。クラウドサービス利用費だけを積み上げた申請は、この必須要件を満たしません。
省力化指数という独自の考え方
この制度には、他の補助金にない指標があります。
省力化指数=[(設備導入により削減される業務に要していた時間)−(設備導入後に発生する業務に要する時間)]÷(設備導入により削減される業務に要していた時間)
分子が「削減時間から、導入後に新たに発生する時間を引いたもの」になっている点に注意が必要です。AIを入れたことで確認作業や修正作業が増えるなら、その時間は分子から差し引かれます。
AI導入では、出力を人が確認する工程が新たに発生することがよくあります。文字起こしにせよ、文書生成にせよ、精度が100%でない限り確認は残ります。計画を作る段階で、この「導入後に発生する時間」を正直に見積もっておかないと、実際の効果が計画を下回ります。
なお公募要領には「設備導入により削減される業務に要していた時間」には既存業務の削減業務の時間を組み込むことが基本、とあり、新規出店を行う場合は将来的に存在する人手の削減時間も組み込めるとされています。
補助上限額と補助率
| 従業員数 | 補助上限額(カッコ内は大幅賃上げ特例適用時) |
|---|---|
| 5人以下 | 750万円(1,000万円) |
| 6〜20人 | 1,500万円(2,000万円) |
| 21〜50人 | 3,000万円(4,000万円) |
| 51〜100人 | 5,000万円(6,500万円) |
| 101人以上 | 8,000万円(1億円) |
補助率は、中小企業が1/2(最低賃金引上げに係る特例適用時は2/3)、小規模企業者・小規模事業者および再生事業者が2/3です。
事業実施期間は交付決定日から18か月以内(採択発表日から20か月以内)と定められており、設備の設計・製作を前提とした長めの期間が設定されています。
一般型とカタログ注文型は別物
省力化投資補助金には「一般型」と「カタログ注文型」があり、対象がちょうど逆になっています。
| 一般型 | カタログ注文型 | |
|---|---|---|
| 対象 | 専用で設計されたオーダーメイド設備 | カタログに登録された汎用製品 |
| 補助対象者 | 生産・業務プロセス、サービス提供方法の省力化を行う者 | 人手不足の状態にある中小企業等 |
| 補助上限額 | 750万〜8,000万円(従業員数による) | 5名以下500万/6〜20名750万/21名以上1,000万円(カッコ内特例は750万/1,000万/1,500万) |
| 補助率 | 中小1/2(特例2/3)、小規模2/3 | 1/2以下 |
カタログ注文型の事業目的は「IoT、ロボット等の人手不足解消に効果がある汎用製品を導入するための事業費等の経費の一部を補助する」とされ、「簡易で即効性がある省力化投資」を促すものと位置づけられています(出典: 中小企業基盤整備機構「中小企業省力化投資補助事業(カタログ注文型)」 https://shoryokuka.smrj.go.jp/catalog/ )。
なおカタログ注文型の補助上限額は2026年3月19日に改定されています。改定前の条件が適用されるのは「2026年3月16日17:00までに提出され、不備なく受理された申請」に限られます。古い金額を載せた解説が残っているため、確認が必要です。
自社の業務に合わせて作るなら一般型、カタログにある製品を入れるならカタログ注文型という切り分けになります。AIを使った仕組みを自社向けに構築したい場合は一般型が該当し得ます。
採択率の目安
一般型の公募回ごとの実績です。公式サイトは申請数と採択数を公表しており、割合は当方が計算したものです(公式に「採択率」として公表されている数値ではありません)。
| 公募回 | 申請数 | 採択数 | 割合(当方計算) |
|---|---|---|---|
| 第1回 | 1,809 | 1,240 | 約68.5% |
| 第2回 | 1,160 | 707 | 約60.9% |
| 第3回 | 2,775 | 1,854 | 約66.8% |
| 第4回 | 2,100 | 1,456 | 約69.3% |
| 第5回 | 2,035 | 1,251 | 約61.5% |
(出典: 中小企業基盤整備機構「採択結果(一般型)」 https://shoryokuka.smrj.go.jp/ippan/grant_adoption/ )
6〜7割で推移しており、設備投資系の補助金としては通りやすい部類です。ただし要件を満たした計画であることが前提で、対象設備の定義から外れていれば通りません。
事業計画で求められる数値
補助金を受けた後、事業計画の達成が求められます。計算式も公募要領に定義されています。
- 付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費
- 労働生産性 = 付加価値額 ÷ 労働者数(従業員数に役員を加えたもの)
労働者数に役員を含める点は見落としやすい部分です。小規模な会社ほど分母に対する役員の比率が大きく、計算結果が変わります。
AIで省力化したい場合の現実的な選び方
ここまでを踏まえると、AI活用と補助金の関係は次のように整理できます。
既製のAIツール・SaaSを導入したい場合は、この制度ではなくデジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)が検討対象になります。ただしそちらも、事務局に登録されたITツールに限られるという別の制約があります。
自社の業務工程に合わせてシステムを設計・構築する場合は、省力化投資補助金の一般型が該当し得ます。SIerや開発会社と組んで、どの工程をどう自動化するかを設計する前提です。
どちらにも共通するのは、「AIを導入したい」という出発点では要件に合わないことです。どの業務のどの工程に、どれだけの時間がかかっていて、それをどう減らすのか。この整理が先にあって、その手段としてAIが出てくる順序でないと、制度の側に合いません。
まとめ
中小企業省力化投資補助金の一般型は、AIを含む技術を使ったオーダーメイド設備が対象です。外部のSIerとの連携などを通じて自社業務専用に設計されたものが想定されており、既製のAIサービスを契約するだけでは要件を満たしません。汎用ソフトウェアは対象外経費に名指しされています。
省力化指数の計算式が「導入後に新たに発生する時間」を差し引く形になっている点も、AI導入とは相性を考える必要があります。確認工程が残る前提で、それでも減る時間がどれだけあるかを見積もることになります。
どの業務から手をつけるべきか、そもそも自社の工程のどこに時間がかかっているのかの整理から相談したい場合は、企業からのご相談もご検討ください。オンラインでの打ち合わせを基本としつつ、必要に応じて訪問しての対応も可能です。
なお本記事は公募要領の記述を整理したものであり、個別の申請可否や要件該当性の判断は、公式サイトおよび専門家にご確認ください。
