コラム
AI導入を任せられる人がいない問題:社内育成と外部活用の分岐点
AI導入を任せられる人材が社内にいないという課題を分解し、社内育成と外部活用のどちらを選ぶべきかを判断するための分岐点を整理します。
公開日:2026年7月24日
執筆・編集:malna編集部(編集方針)

結論
「AI導入を任せられる人がいない」という課題は、実際には一つの役割不足ではなく、現場での運用推進・データ活用・企画・経営層の理解という複数の役割が同時に不足している状態を指すことが多いと考えられます。この課題への対応は、社内育成と外部活用のどちらか一方を選ぶというより、緊急度と業務の継続性、社内リソースの有無に応じて組み合わせることが現実的です。本記事では、不足している役割を分解したうえで、社内育成と外部活用それぞれの向き不向きと、判断の分岐点を整理します。
AI導入を任せられる人がいないとは、具体的に何が不足しているのか
「人がいない」という言葉は、実際には複数の異なる不足を一括りにしていることが多いと考えられます。まず、どの役割が足りていないのかを分解することが、対応策を考える出発点になります。
推進・データ活用・企画・経営理解という4つの不足
AI導入に関わる役割は、大きく分けて次のように整理できます。
- 現場の業務知見と基礎的なAI知識を持ち、自社へのAI導入を推進できる担当者
- AIツールを使ってデータ分析を行い、事業に活かせる担当者
- AIを活用した製品・サービス・業務フローを企画できる担当者
- AIの可能性と限界を理解し、投資判断ができる経営・マネジメント層
表の形で整理すると、それぞれの役割が担う内容は次のように分かれます。
| 不足しやすい役割 | 担う内容 |
|---|---|
| 現場推進役 | 現場の業務知見と基礎的なAI知識を持ち、自社へのAI導入を推進する |
| データ活用担当 | AIツールを使ってデータ分析を行い、事業に活かす |
| 企画担当 | AIを活用した製品・サービス・業務フローを企画する |
| 経営・マネジメント層 | AIの可能性と限界を理解し、投資判断を行う |
多くの企業では、この中でも特に現場推進役の不足が目立つと考えられます。技術そのものへの理解と、自社の業務プロセスへの理解を両方兼ね備えた人材は少なく、どちらか一方に偏った人材しかいない状態になりやすいためです。情報システム部門の担当者が技術面には詳しくても現場業務への理解が浅かったり、逆に現場の担当者が業務には詳しくてもAIツールの特性を理解していなかったりするケースは、比較的よく見られる状況と考えられます。
なぜ社内で自然発生的に育ちにくいのか
生成AIをはじめとするツールは日々更新されており、独学だけで実務レベルに追いつくには相応の時間がかかります。加えて、既存の業務を回しながら新しい技術を学ぶ余裕を持てる担当者は限られており、通常業務と並行してAI活用のキャッチアップを進めることが難しい状況にあると考えられます。結果として、担当者が決まらないまま導入の検討だけが先送りになるケースも見られます。
また、「誰かがやってくれるだろう」という形で担当が曖昧なまま検討が進むと、いざ導入という段階になって初めて担当者不在が表面化することもあります。導入を検討し始めた早い段階で、推進役を明確に定めるか、外部の支援を仰ぐかを決めておくことが、検討の停滞を防ぐ一つの方法になると考えられます。
社内育成という選択肢
メリットと限界
社内の人材を育成する最大の利点は、自社の業務や事業への理解を前提にしたまま、AI活用の知見を積み上げられることです。長期的に見れば、外部に依存しない体制を築ける可能性があります。一方で、育成には学習と実践の両方が必要であり、成果が出るまでに一定の時間がかかる点は避けられません。
時間軸とコスト
社内育成は、研修費用や学習時間の確保といった直接的なコストに加えて、育成期間中は本来の業務との両立が求められるという間接的なコストも伴います。急いで成果を出したい状況では、この時間軸が事業のスピード感と合わないことがあります。
離職・異動のリスク
時間をかけて育成した担当者が異動や離職によって不在になると、蓄積した知見が失われてしまうリスクもあります。特定の個人に依存した体制ではなく、複数人で知見を共有できる仕組みをあわせて検討することが望ましいと考えられます。
外部活用という選択肢
外部活用の種類
外部活用には、いくつかの形態があります。
- コンサルティング会社による導入支援
- 業務委託による実務担当者の確保
- 審査を経た専門人材とのマッチングサービスの活用
それぞれ関わり方の深さや期間、コスト構造が異なるため、自社が求める支援の範囲に応じて選ぶ必要があります。
メリットと限界
外部活用の利点は、育成期間を待たずに実務経験のある人材の知見を活用できる点にあります。立ち上げ期に集中的な支援を受けることで、社内に知見がない状態からでも導入を前に進めやすくなると考えられます。一方で、自社の事業やカルチャーへの理解には一定の時間がかかるため、初期段階では認識合わせのための時間を確保する必要があります。また、外部人材の実力を見極める仕組みを自社で持たない場合、支援内容と費用が見合っているかどうかを判断しにくいという課題もあります。この点では、審査を経た人材が登録されているマッチングサービスを利用することで、見極めにかかる負担を軽減できると考えられます。
依存しすぎないための工夫
外部活用を進める際は、外部の担当者に任せきりにするのではなく、社内の担当者が並走しながら知見を引き継いでいく体制を意識することが重要です。導入後の運用まで見据えて、外部活用と並行して社内の育成計画を進めておくことで、将来的に外部への依存度を下げていくことができると考えられます。
分岐点をどう判断するか
自社の状況を次の観点で整理すると、社内育成と外部活用のどちらを優先すべきかが見えやすくなります。
- 緊急度:今すぐ着手する必要があるか、中長期で取り組めばよいか
- 業務の継続性・専門性:一時的なプロジェクトか、継続的に専門知見が必要な業務か
- 社内リソースの有無:学習時間を確保できる担当者がいるか
- 予算:外部活用にかけられる予算と、育成にかけられる時間のどちらを優先するか
ここまで整理してきた両者の違いを、判断軸ごとに並べると次のようになります。
| 判断軸 | 社内育成が向きやすい状況 | 外部活用が向きやすい状況 |
|---|---|---|
| 緊急度 | 中長期で取り組めばよい | 今すぐ着手する必要がある |
| 業務の継続性・専門性 | 継続的に社内に根付かせたい業務 | 一時的なプロジェクト、または外部の専門知見が必要な業務 |
| 社内リソース | 学習時間を確保できる担当者がいる | 通常業務と並行して学ぶ余裕のある担当者がいない |
| 予算と時間 | 育成にかけられる時間を優先できる | 外部活用にかけられる予算を確保できる |
| 立ち上がりまでの時間 | 学習と実践の両方が必要で、成果が出るまでに一定の時間がかかる | 育成期間を待たずに実務経験のある人材の知見を活用できる |
| 主に抱えるリスク | 育成した担当者の異動・離職で知見が失われる | 自社の事業理解に時間がかかる、外部人材の実力を見極めにくい |
緊急度が高く、かつ専門性が求められる業務であれば外部活用を先行させ、中長期的に社内に根付かせたい業務であれば育成に軸足を置く、という組み合わせが現実的な進め方になると考えられます。実務上は、まず外部活用によって導入を前に進めながら、並行して社内の担当者候補を決めておき、外部の知見を引き継ぐ形で徐々に内製化していくという段階的な進め方を取る企業も見られます。どちらか一方に決め切る前に、自社にとっての優先順位を関係者間ですり合わせておくことが、後戻りの少ない進め方につながると考えられます。
実例に見る外部活用の使い方
外部の支援を受けながら業務を一気通貫で進めた例として、厚胤塾の事例では、教育分野において広告運用と集客の施策を一気通貫で支援した取り組みが紹介されています。社内に専任の担当者を置きにくい体制であっても、外部の専門人材が入ることで施策の立ち上げから運用までを進められることを示す一例と考えられます。取り組みの詳細や効果の範囲は事例ごとに異なるため、自社の状況と照らし合わせて参考にすることが望ましいです。
企業のAI活用方針の状況
総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、生成AIの活用方針を策定している企業は49.7%にとどまり、中小企業では約半数が方針を未定のままとしているとされています。一方で、業務における生成AIの利用率は55.2%とされています(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112220.html)。方針が定まっていないまま利用だけが先行している状況は、導入を任せられる担当者が明確に定まっていない企業が一定数存在することの表れの一つと考えられます。
まとめ
「AI導入を任せられる人がいない」という課題は、推進・データ活用・企画・経営理解という複数の役割の不足が重なって生じていることが多いと考えられます。社内育成と外部活用はどちらか一方を選ぶものではなく、緊急度や業務の継続性、社内リソースの有無に応じて組み合わせることが現実的です。まずは自社にどの役割が欠けているのかを分解して整理し、そのうえで「今すぐ外部の力を借りるべきか」「時間をかけて育てるべきか」を切り分けることが、検討を前に進める第一歩になると考えられます。マーケティング領域の担当者を探す場合はマーケター、営業領域の担当者を探す場合は営業職のような職種軸での整理も、自社に必要な役割を具体化する手がかりになります。
