コラム
DX推進の専任者がいない中小企業が最初の一歩を踏み出す進め方
DX推進の専任担当者を置けない中小企業に向けて、いきなり担当者を決めずに小さく始め、体制を段階的に広げていく実務的な進め方を整理します。
公開日:2026年7月24日
執筆・編集:malna編集部(編集方針)

結論
DX推進の専任担当者を置けない中小企業では、「まず担当者を決めてから進める」という順序そのものが最初のつまずきになりやすいと考えられます。専任者がいない状態を前提に、対象範囲を小さく絞って始め、兼務メンバーによる小さなチームで動かしながら、成果が見え始めた段階で体制を広げていくという順序のほうが、実務としては現実的です。本稿では、専任者ゼロの状態からDX推進を立ち上げるための段階的な進め方と、各段階で必要になる体制の目安を整理します。
「担当者を決める」から始めると止まりやすい理由
適任者がそもそも社内にいない
DX推進には、業務の課題を把握している視点と、ツールや仕組みで解決する視点の両方が必要ですが、この両方を兼ね備えた人材は中小企業の社内に元々多くありません。適任者を探すこと自体に時間がかかり、探している間に取り組みそのものが始まらないまま停滞してしまうことがあります。担当者探しを起点にすると、人が見つかるまでDX推進が事実上止まってしまうという構造的な問題があると考えられます。
経営者がすべてを抱え込んでしまう
専任者を置けない企業では、結果として経営者自身がDX推進の旗振り役を兼ねることになりがちです。しかし経営者は本来の経営判断や日々の意思決定に時間を取られており、DX推進のための調査や検討にまとまった時間を割きにくい立場にあります。的を絞らずに「会社全体のDXを進めよう」と大きく構えてしまうと、着手すべき範囲が広がりすぎて、結局何から手をつければよいのか判断がつかないまま時間だけが過ぎていく、という状況に陥りやすいと考えられます。
専任者不在を前提にした進め方
専任担当者がいないことを弱点として捉えるのではなく、最初から兼務体制・小さな範囲での立ち上げを前提に設計することが、現実的な出発点になると考えられます。
ステップ1:対象領域を一つに絞る
最初から全社的なDX推進を目指すのではなく、業務量が多い割に定型的な作業(書類作成、データ集計、問い合わせ対応の下書きなど)を一つだけ選び、そこに限定して着手します。範囲を絞ることで、専任者がいなくても検討にかかる負荷を抑えられ、経営者や兼務メンバーの手が空いた時間だけで進めやすくなります。
ステップ2:1人に背負わせず兼務の小チームで動かす
選んだ領域を担当する人を一人に固定するのではなく、経営者と現場の兼務メンバー2〜3名程度の小さなチームとして動かすことが望ましいと考えられます。1人に責任が集中すると、その人の異動や繁忙期によって取り組みがすぐに止まってしまいます。小チームであれば、誰かの手が離せない時期があっても他のメンバーが進め方を把握しているため、取り組みが完全に停止する事態を避けやすくなります。
ステップ3:外部の伴走者を壁打ち相手として使う
社内に知見がない段階では、ツールの選定や進め方の判断に迷う場面が多く出てきます。ここで外部人材をすべて任せる相手としてではなく、判断に迷った時の壁打ち相手・伴走者として活用すると、社内の兼務メンバーだけで判断する負荷を減らせます。外部人材の役割設計や社内担当者との連携の考え方については、AI推進担当が社内で育たない理由で詳しく整理しています。
ステップ4:小さな成果を可視化して社内に共有する
絞った領域で一定の効果(作業時間の削減や手戻りの減少など)が見え始めた段階で、その内容を社内に共有します。専任者がいない状態では社内の理解を得にくいことが多いため、抽象的な方針よりも、実際に取り組んだ範囲でどう変わったかを具体的に見せるほうが、他部署の協力を得やすくなると考えられます。
ステップ5:範囲を広げながら簡易的なルールを整える
最初の領域で一定の手応えが得られたら、対象範囲を隣接する業務に広げていきます。この段階で、ツールの使い方や判断基準についての簡易的な社内ルールを整備しておくと、担当者が変わっても取り組みが引き継ぎやすくなります。ここでも専任者を置くかどうかの判断が改めて必要になりますが、社内で育成するか外部人材を活用するかの分岐点については、AI導入を任せられる人がいない問題で整理した考え方が参考になります。
進め方の段階と必要な体制の対応表
| 段階 | 主な取り組み | 必要な体制の目安 |
|---|---|---|
| 立ち上げ期 | 対象領域を一つに絞って着手 | 経営者+兼務メンバー1〜2名 |
| 検証期 | 小さな範囲で運用し、効果を確認 | 兼務の小チーム(2〜3名)+外部の壁打ち相手 |
| 共有期 | 成果を社内に可視化し理解を広げる | 兼務メンバー+関係部署の窓口役 |
| 拡大期 | 対象範囲を隣接業務へ拡張 | 複数部署の兼務担当+簡易ルールの整備 |
| 定着期 | 運用ルールを整え引き継ぎ可能にする | 専任化の検討、または外部人材との継続連携 |
この表はあくまで目安であり、企業の規模や業務内容によって必要な体制は変わります。重要なのは、最初から拡大期の体制を目指すのではなく、立ち上げ期の小さな体制で始められる範囲を見極めることだと考えられます。
進め方で起きやすい落とし穴
専任者不在のままDX推進を進める際、最も起きやすい落とし穴は、最初から複数部署を巻き込もうとしてしまうことです。関係者が増えるほど合意形成に時間がかかり、着手までのリードタイムが伸びてしまいます。まずは一つの領域、小さなチームで始め、成果が出てから範囲を広げるという順序を崩さないことが、専任者がいない状態でも取り組みを止めずに進めるための現実的な工夫だと考えられます。
もう一つの落とし穴は、外部人材への依存が長期化してしまうケースです。壁打ち相手として活用を始めたはずが、いつの間にか判断のすべてを委ねる関係になってしまうと、外部人材が離れた時点で推進力が失われます。どの段階で社内に判断を戻すかをあらかじめ意識しておくことが、専任者不在の状態から着実に体制を育てていくうえで欠かせないと考えられます。
DX推進の専任者がいない中小企業にとって、担当者探しから始めるのではなく、小さな領域・小さなチームから着手し、成果を可視化しながら段階的に体制を広げていく進め方が、現実的な出発点になると考えられます。
